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pixiv ⇒ ふたりの軌跡 05

大学生になった木吉と伊月の同棲話の5話目。
前回から引き続き過去編・高校での紆余曲折のお話になります。
※前回同様、色々捏造している部分がありますので、気を付けてください。
  186Q~189Qを読んで妄想した部分あります。 

01 / 02 / 03 / 04      

+ + + + + + + + + +
WC(ウインターカップ)終了後以降、伊月の様子が少し変わった。時々、自暴自棄のような状態になるようになった。練習中の集中力も散漫になりがちで、日向やカントクからの叱責が飛ぶ。

「もういい、伊月。ちょっと頭冷やしてこい」
「……悪い」

1人体育館を出ていく伊月の背中を見つめ日向が眉を顰める。

「どうしたんだかな。本人に自覚がある分、いかんともしがたいな」

自暴自棄になっている状態は伊月自身よくわかっているようで、日向やリコが言わずとも気付いているんだが、それでは部内に示しが付かない為、あえて2人は口にして指摘しているがこの状態が良いとは言い難い。

「何があったんだ、まったく」

日向が頭を掻いて言うが、それは全員感じていることだった。
WCが終わってからという事以外、特に思い至らない。
個人的なことなら知りようもないが、何を1人で抱え込んでいるのかと思う。

「俺が様子を見てくるよ」

膝の怪我もあり、木吉は練習には参加せずリコと共に指導側にいる。
まだ練習中で様子を見に行けるのは自分だけだろうと木吉が申し出る。

「ああ。悪いな」

日向は任せたと言い、練習に戻っていく。木吉は体育館を出て伊月の姿を捜す。
一番居そうな水飲み場には居らず、木吉はその他に1人になれそうな場所を思い出し、体育館裏に足を向ける。
ここには来客用の駐車場があるだけで普段人通りがない。案の定、伊月は駐車場を区切るためのブロック塀に腰掛け外を見つめていた。

「伊月」

木吉の声に肩を震わせるだけで、視線はそのままだ。

「……いづ」
「ダメだ」

もう一度、伊月の名を呼ぼうとした木吉の声に被るように発せられた声に木吉は目を見開く。

「どうしたらいいのか、わからない」
「……何があった」
「何もない、何もない」

木吉の言葉に伊月は首を振るだけだ。

「何もないわけがないだろう」
「何もない、あるとすれば俺が弱いだけだ……」

伊月の言い回しに木吉は眉を顰める。

「もう俺が試合に出なくてもいいんじゃないかって、思うんだ」
「……?」
「WCの海常戦。あれに降旗(フリ)が出ただろ、ああいう試合の運び方もあるんだって気付かされた」
「あれはっ」
「実際、海常相手に応戦してたろ? 俺ではどうにも出来なかった局面をあいつは変えた」

PGとして、しっかり役割を果たしてたと、言う伊月の顔は晴れやかだ。可愛い後輩の活躍は嬉しい。

「それを見ててPGは降旗でいいんじゃないかって」
「降旗のはお前がいるからこそ、引き立つやり方だぞ。実際、第一Qもたなかった」
「わかってる。頭ではわかってる。あそこの局面で降旗を出したカントクの意図だって」
「だったら」
「……心がついていかない」

伊月の言葉に木吉も固まる。

「俺には鷲の目(イーグルアイ)以外、突出したものがない。あの試合でようやく鷲の鈎爪を出せたけどあれだって実戦で使えるまで何度練習したか……」

言いながら伊月の肩が震える。

「それだって、この目があってこそだ。この目が無くなったらと考えるだけで怖くなる」
「伊月」
「ホント、ごめん。甘えだ、こんなの……」

そう言いながら伊月は木吉から見えないように涙を流す。
伊月の練習量は木吉から見ても多い。人一倍努力をしていなければ、全国クラスの選手との死闘には到底太刀打ちできないのは事実だろう。
実際、伊月は体格的にも身体能力的にもバスケの才能に溢れているわけではない。
もし昔からの強豪校に伊月が進んでいたら、そこで彼が試合に出るチャンスはきっとない。新設校で部員数も少ないからこそ、彼に出番がまわってきていた部分は非常に大きい。
それを伊月は痛いほど理解している。だからもう一人のPGという存在はチームにとって心強いが伊月にとっては脅威でしかない。
部活の試合とは実力世界だ。ワガママを言えば出してもらえるようなものではない。
それもすべてわかりきっているが心がついていかないと、涙する伊月を責める言葉を木吉は持っていない。
誰もが抱える心の闇を誰にも打ち明けず自分自身の問題だからと一人律している彼を木吉はこれ以上追いつめることは出来ない。
木吉は伊月に近づいて震える肩を抱え込んだ。木吉の大きな手には伊月の肩は本当に小さい。

「き、よし?」
「人には誰しも弱い部分がある。それを誰かに見せたところでどうということはない」

だから、泣きたいなら泣いていいと、木吉は伊月の耳元で囁いた。ヒュっと息をのむ音が聞こえ伊月の目から次々と涙がこぼれ落ちた。
気にしなくていいと木吉は伊月の頭を自身の胸へと押しつける。はじめは遠慮がちだった伊月の手が木吉のTシャツを掴む。木吉は伊月が落ち着くまでずっと抱きしめていた。
木吉は高尾の言っていた意味がはじめて理解できた。
1人であり続けようとする伊月は強いが、その中身はすごく弱い。誰にも心配掛けさせまいとしつづける、心が折れそうなのを隠し続ける。それは強い精神力があってこそだが、1人で耐え続けるといつか歪みを生む。耐えられなくなった心は悲鳴を上げる。
ずっと一緒にチームメイトとしていたのに気付くことができなかったことに木吉は後悔していた。サインは常にあったはずだったのにと。



ひとしきり泣いた伊月はすこしすっきりしたようで、木吉に泣き顔を見られた気恥ずかしさに頬を赤くしていた。

「ホント、みっともない」
「オレは気にしてない。潰れそうになるなら、頼ってくれて構わない」

目元に残る涙を指で拭い木吉が言えば伊月は強がることはせずに素直に頷いた。

「木吉、この事、日向には……」
「言わないよ。リコにも言わない」

伊月が危惧しているのはチームの支柱である二人に知られることだ。
二人から得ている絶対的信頼が重荷になっているとは口が裂けても言えない。その信頼は伊月の支えでもあるわけなので、それを崩そうとは思えない。

「気にはしてたけど、そこは適当に誤魔化すさ」
「悪い……」
「いいって。そのかわり、オレには隠すなよ」

木吉は伊月に向けてそう言うと伊月も黙って頷いた。この日から伊月は木吉を頼るようになった。


 * * *


弱音を吐ける場所を見つけた伊月は精神的にも落ち着いたようで練習も今まで通りこなせるようになった。
木吉は日向とリコには、事実は話さなかった。個人的な事情があったみたいだと、軽く話した。
気にはしていたが、伊月が通常通りに戻ったのでそれ以上入ってくることはなかった。
伊月は木吉と一緒にいることが多くなった。

「木吉と伊月ってあんなに仲良かったか?」
「別に普通じゃん。木吉が入院してた時もメールしてたし」
「そっか……」

練習の休憩中、木吉と話している伊月を見て日向か疑問を口にするが、横に居た小金井が別に前からそうだったと言う。確かに木吉とメールのやり取りをしてたのは日向も目撃していた。
それにしてもという程に、一緒に居るようになったと思う。
休憩時や練習後に一緒にいない時はないようだ。
帰宅も一緒にしてたよなと、日向は記憶を辿らせる。だからどうだと言われても返答に困るが、ここまで一緒に居たかなと疑問には思った。

「伊月をよく一緒にいるよな」
「ん、そうか?」

今は日向といるけど? と言う木吉に日向は蹴りを入れる。伊月はコート内でミニゲームをしている最中だ。
日向は何故か伊月ではなく木吉に聞いていた。

「あの時からな気がするのは、俺の気のせいか?」
「……」

日向の言う〝あの時〟というのは、先日の一件の事だ。
木吉はどう答えたものかと思い、すぐには口が開けなかった。

「まあ、伊月が1人で抱え込むのは昔からだからな。それを聞いてくれてるなら別にいいんだ」
「……」
「な、なんだよっ」

日向の言葉に木吉は驚く。この主将は、本当に主将になるべくしてなっているのだと痛感する。

「いつからの付き合いだと思ってるんだよ。そんくらいは知ってる。ただ、アイツは俺にそれを言わねえ」

言える場所が出来たのなら、俺は別にどうでもいいんだと、続ける日向に木吉は笑みを向ける。

「全部言ってくれてるかどうかはわからんがな」
「それでも、言ってるならいいんだよ」

抱え込む量が少しでも減るのならばそれに越したことはない。日向はそう考える。

「日向には敵わんな」
「あ?」
「いやいや、こっちの話」
「なんでもいいが、何かあればちゃんと話せよ」

木吉は笑顔で日向に何でもないと言う、日向はそんな木吉を無視して日向はそれだけ言い、練習している後輩に声を掛ける。




伊月は弱音の捌け口となっている木吉はその役を望んでやっている。
それを伊月が引け目を感じているのは薄々わかっていた。
元々、1人であり続けようとしていた伊月が人に頼りっぱなしというのは落ち着かないようだった。
練習終了後、一緒に帰ることも多くなった。

「木吉」
「ん?」
「迷惑、じゃないのか?」

少し言いづらそうに伊月が言葉にする。
いつか言われるかなと木吉は思っていたが、予想よりも早かったなと木吉は思った。

「なにが?」
「いや、こんなに弱音ばかり聞いてもらって……」

伊月は言いながら立ち止まる。木吉は止まった伊月を振りかえる。
まだ寒い日が続いていて、コートを着ているがマフラーのない首元が少し心許なくて心配になりながら伊月の言葉を待つ。

「普通に考えても、いいものじゃないだろう」
「……」

木吉は黙ったまま伊月の前に立つ。伊月は俯いたまま木吉に甘えすぎていると自分を戒める。

「伊月。俺は望んでやってることだ」
「……っな、なんで?」
「理由があった方が、伊月にはいいのかな」

木吉はまだ言うつもりはなかったんだけどと、呟いてから伊月の頬を両手で包み上を向かせ目を合わせる。
疑問を滲ませる目に木吉は少し笑いながら顔を近づける。

「伊月が好きだから」
「……っ」
「だから、気にすることはないぞ」

木吉の言葉に目を見開いて驚く伊月に、木吉は笑みを浮かべたまま額をくっつける。

「もっと後で言おうかと思ってたんだけどな」

木吉はそう言うと伊月を解放した。そして、1人歩き出す。
いつから好きだったのか聞くなよと、言いながら歩いていると背中の裾を引っ張られる。

「?」
「ま、待って」

伊月が俯いたまま木吉のコートを掴んでいる。よく見れば頬が赤く染まっているような気がして木吉は歩みを止める。

「どした?」
「……俺の、どこが」

良かったの? と、小さく言葉にする伊月に木吉は少し考えて口を開く。

「一生懸命過ぎるところ、危なっかしくて目が離せない」
「――ッ」

木吉は服を掴んでいる伊月の手を取って、屈みこみ伊月を目線を合わせる。

「……返事は聞かないつもりだったんだけど」

木吉が笑顔で伊月の顔を見つめる。

「その反応だと期待してもいいのかな」

木吉は頬を赤く染めたまま何も言えない伊月の口元へ顔を近づける。

「ダメなら止めて」

手を取ったまま、顔を近づけ木吉は忠告するが伊月は嫌がる素振りを見せないので、そのまま口を塞いだ。
触れるだけのキスをして再び伊月を見ると、真っ赤になっていて木吉は笑う。

「俺だけに甘えてくれるのなら、どんなものでも受け止めるから」
「……甘すぎる」
「それぐらいが、ちょうどいいって」

木吉は握っていた伊月の手を離さないまま歩き出す。
触れていた伊月の手が少し冷えていたので、温めるように木吉は大きな手で包み続けた。

     
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自己紹介:
のんびりまったり、同人活動している人間です。

【黒子のバスケ】
友人のススメで原作を読みアニメを見てます。誠凛の伊月センパイ&秀徳1年コンビを気に入っております。

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