pixiv⇒君の手のぬくもり 【黒子×伊月】
伊月先輩病気ネタです。
IF的な話の内容に加え、シリアスになりますので、苦手な方は注意してください。
■評価&ブックマありがとうございます。こういった設定のお話に拒絶反応とかあったらどうしようと不安でしたのでとても嬉しいです■
※おかしな部分を少し修正いたしました。内容に変化はありません※
伊月先輩病気ネタです。
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誠凛高校バスケ部から伊月俊の姿が消えた。
正確にはバスケ部からではなく、誠凛高校からというべきだろう。そしてその居なくなった理由、それは以前の木吉のように、病院へ入院してしまったのだ。
怪我をしたわけではなく、病気で。
異変は少しずつ起こっていった。伊月達二年生が三年生になり、新一年生も入部した頃に徐々に調子が悪くなりはじめは練習を見学する事が多くなった。
そして、練習を休むようになり、最終的には学校を休むようになってしまった。
最後に届いた知らせが、入院だった。
当初は検査入院、すぐに退院すると言っていたので部員全員で待っていたが、そこから一週間がたち一ヶ月が過ぎるにつれ不安が募る。木吉のように怪我ならば、まだわかりやすかった、全治何ヶ月と提示されるからそれまで待っていられる。
けれど、いつ完治するのかもわからない病気ともなると話は別だった。
一ヶ月が経過した頃、部員みんなで見舞いに病室を訪ねたときは思わず絶句してしまった。
元々、体格の良い方ではなかったが、見るからに筋肉が落ち、細くなってしまった伊月に全員掛ける言葉に困ってしまった。
それ以降、病室に行くのが怖くなり、部員みんなで訪問することは止めた。
持ち主の不在を知らせるように部室に置かれたままの伊月のダジャレのネタ帳は新ネタが追加されないままだ。
試合の要であるPG(ポイントガード)の不在は大きかった。C(センター)でPGも出来る木吉も膝の具合が良くないのもあり、試合運びの修正が余儀なくされてしまった。
居なくなってしまった伊月を話題に出すこともなくなっていた。出せば不在だという事を再認識してしまいそうで、怖かったのだ。
開かれることのなくなってしまった伊月のロッカーに願掛けのように触れる。早く退院できるように、もう一度みんなでバスケが出来るようにと。
「立場が逆転だな」
「そうだな」
木吉は度々、伊月の病室を訪れていた。木吉自身も長期にわたり入院してバスケ部を不在にさせていた。入院していた時の歯痒さは良く知っている。
掛けられる言葉も他の部員よりも多く持っていた。
けれども膝以外は元気だった自分の体とは違い、伊月は病人なんだと木吉は痛感していた。
「新入部員はどうだ?」
「ああ、元気元気。リコのしごきにも耐えてるよ」
「そりゃ、今後が楽しみだな」
嬉しそうに目を細める伊月に木吉も笑みを浮かべる。
「今日は天気も良いし、散歩でもしないか?」
木吉は声を掛ける。けれども伊月は少し視線をずらして首を横に振った。
「悪いな、木吉。立ってると眩暈がひどいんだ」
そう言って向けられた笑顔は無理しているもの。木吉はそれは残念だと気にしてない風を装う。
改めて伊月の世界はこの病室だけになってしまったと木吉は思う。
木吉は気を紛らわせるために、他の話を振った。
コンコン
「はい」
病室の扉を叩く音に伊月が返事をする。
伊月の声に反応して、扉がゆっくり開く。開く扉から覗いた顔は黒子だった。
「おー黒子じゃないか」
木吉が声を上げて、手を上げる。
「ども」
黒子は中にいた木吉に驚きながらも、伊月と木吉の二人に挨拶をする。
そして、病室に黒子も入る。
「木吉先輩もいらしていたんですね」
「ああ。黒子も時々来てたんだな」
「はい」
そして、コイツもとカバンのファスナーを開ける。
ピョコと出た頭に木吉と伊月は思わず笑みを零してしまう。病院内、病室に決して連れてきてはダメな犬。テツヤ二号を黒子は連れてくることが多かった。空気を読むこの犬はこの病院内にいる間は決して吠えない。
「また、連れてきたのか?」
「はい」
そうして、伊月のベッドに二号を乗せる。ダメだろうと黒子に注意しながらも伊月は二号の頭を撫でたりする。
「よしよし。元気だったか?」
嬉しそうに撫でられる二号は大人しく伊月にされるがままだった。
「ははっ。相変わらず大人しいな」
屈託のない笑みを浮かべる伊月を見て、木吉は黒子が二号を病院内に内緒で連れてくる理由がわかった。
伊月のこの表情は二号でなければ引き出せないものだろう。自分たちではどうしても互いに気を遣ってしまって、この表情は出せない。
動物の力というのはすごい。
今日は二人と一匹の訪問で病室は賑やかだった。
面会時間の終了が迫ると、木吉と黒子は荷物を持ち退室しようと立ち上がった。勿論、二号はカバンの中へと入れられる。
「それじゃあ、伊月。また来るから」
「ああ」
「ボクもまた来ます。二号もつれて」
「バレないようにな」
伊月は二人に声を掛けて、時間がないぞと注意する。
その声に木吉と黒子は返事をして、ゆっくりと病室を出ていき、扉を閉めた。
伊月は閉められた扉を見つめ笑みを消した。そして窓に視線を向ける。
外はいつのまにか夕暮れに赤く染まっている。しばらく窓の外を見つめる。
カーテンを閉めようとベッドから降りて窓辺に立つ。けれども地面が歪んだように見え思わずカーテンを握りしめる。この距離でこんな状態なのに、とてもじゃないが外には行けないと伊月は奥歯を噛みしめる。
そして、窓の外を見れば先ほど病室を出て行った木吉と黒子が歩いているのが見える。
夕日が照らす二人の背中が眩しく見えるのは、決して太陽のせいだけではない。
あの横を歩き、共に走っていたころが遠い昔のようだと伊月は思う。
普通に歩くことさえままならなくなって、いつ完治するのかもわからない。
「……っ」
何度、こうして人知れず涙を流しただろう。
自分は大丈夫だと、虚勢を張ることも出来ないほど、弱っている体に優しい皆が気を遣わないわけがない。
見舞いの回数が確実に減っているのは、こんな自分を見ていることが出来ないからだ。
皆には自分の事など気にせず、いつも通りに楽しくバスケをしてもらいたい。それは、本当の気持ちだ。
けれどその中に自分がいないことが当たり前になってしまう、そうなってしまうことに現実に自分は耐えられそうにない。
木吉や黒子のように来てもらいたいと思ってしまう自分もいる。
矛盾した感情に伊月はどうしても折り合いが付けられない。
それが爆発して、涙が出てくる。
誰にも見せられない、知られたくない。
カーテンを握りしめたままその場に座り込む。溢れ出る涙を止められる術はなく、伊月はしばらくそのままでいた。
また、明日はしっかりしなくてはいけない。
* * *
木吉と黒子は歩きながら、交わす言葉もなく病院を出た。
見るたびに弱っているチームメイトは見ていてつらい。けれど、一番つらいのは伊月本人だ。本当ならば現実を受け止めたくなくて、見舞いに行くのを止めようかと何度も思った。だけどあの寂しい病室で一人いなければならない、悔しさは木吉自身が良く知っている、誰かがいてくれるだけでそれが紛れることを知っている。
だから、行き続ける。木吉は決めていた。
「よく、行っていたのか?」
「はい。行くと少し嬉しそうにしてくれるので、行ってます」
木吉の問いかけに黒子は素直に答える。
「本当なら毎日行きたいんですけど、平日は練習もあるので土日のどちらかだけでもと」
「つまりは、毎週?」
カバンからテツヤ二号を出し木吉の言葉に頷く。そういえばと木吉は最近の土日の練習の後、黒子は居残り練習に参加せずにいなくなっていた。そして、二号の姿もなかったのはこの為だったのかと合点がいった。
黒子は伊月に対し特別な感情を抱いている。そんな人が床に臥せってしまった。
それは、中々にキツイものがある。
「早く戻ってきてもらいたいですし、あの部屋は寂しすぎます」
伊月の母が生けているのであろう花は飾られていたが、他に何もない病室は白かった。
その白い部屋に一人。
はじめは違和感があったのに、行くたびにその部屋に馴染んでいく伊月に少なからず危機感を覚えてしまい、黒子は二号を毎回連れて行くことにした。
以前のように何も考えず笑えた日々に戻れるように、一瞬でも戻ってくれる伊月に黒子は嬉しさと切なさに押しつぶされる。
「そうだな。あの部屋は寂しいな」
黒子も同じことを感じていたことに木吉は同意する。
このまま、あの部屋に馴染んではいけない。
止められる力はないが、少しでも一瞬でも元気なあの頃に戻れるのならば、自分たちの辛さなど小さなものだ。
「行けるときは必ず行こうな」
「はい」
木吉の言葉に黒子は力強くうなずいた。
* * *
木吉のクラスの前に日向がいることに木吉は驚いた。自分のことを嫌いだと豪語している日向が自ら来ることはあまりない。
「どうした?」
「昨日、伊月の所に行ったんだろ?」
「ああ」
「どうだった?」
居残り練習すると言った日向に行くところがあると目的地は告げずに木吉は出て伊月のもとへ行った。
以前、一緒にいこうかと声を掛けた際、日向は躊躇いがちに首を振った。
〝これから伊月の見舞いに行くけど、日向も行くか?〟
〝……い、いや、俺はいいや〟
見舞いに行かないという薄情な事をしていると日向自身の葛藤が出ている言葉だった。
あのリコが作る過酷メニューをともにこなしていたチームメイトが弱っていく姿は辛すぎる。見るに堪えられない、それは木吉にもよくわかったので無理強いはしなかった。
けれど、行った後に必ず様子を窺うあたりが日向だった。
実際に見ることは辛すぎて出来ないが、気にってしまう容体に木吉はいつも掛ける声は確認の言葉だった。
「まあ、変わらず……だな」
「そう、か……」
そんなすぐに良くなるものじゃないか、と伏し目がちに呟かれる言葉に木吉も言葉を失う。こんなにも心配している、早く良くなって欲しいと願い続けているのに現実は残酷だ。本当ならば良くなるどころか悪くなっているという現実は口に出せなかった。
「そういえば、黒子も来てたぞ」
「黒子?」
「毎週、行ってるんだと」
木吉が日向に教えてあげると日向もだから土日の居残りに姿がなくなったのかと納得したようだった。
「行けるだけ、すごいな」
「……ん?」
「俺はダメだ。怖くて行くことができねぇ」
日向の言葉に木吉は人それぞれだと声を掛ける。
「俺の場合は、入院経験もあるからな向こうもそういう部分で強がることも少ないだろうし」
「……けど」
「伊月もわかってるさ。アイツはそういう奴だろう」
チーム全体を常に見渡していた伊月には、みんなの気持ちも痛いほどわかっているはずだ。だから、部員全員で見舞いに行かなくなっても何も言わなかった。
気付かない訳がない。けれど、口に出して聞いてくるほどバカでもない。
「気い使いすぎなんだ、病人のくせに……」
ギリッと奥歯を噛みしめる日向に木吉は声を掛けなかった。
今は掛けるべきではない。
一人不在のまま今日も練習は開始される。
そして、インターハイ予選はもう目の前に迫っていた。
「黒子」
ロッカーで練習着から制服に着替えている最中に掛けられた声に振り返るとそこには日向の姿があった。
「主将(キャプテン)……?」
「昨日、行ったんだろ」
「はい」
どこへとは聞かなくともわかる。伊月のところだ。
大方、木吉あたりが居たと話題に出したのだろうと想像がついた。
「どうかしたんですか?」
「……い、いや、どうだった?」
もうすでに、部室に他の部員の姿はない。
「どうって、変わらないです。伊月先輩は」
「……」
「いつ行っても、どんな状態でも笑顔です」
黒子は訪問するたびに迎え入れてくれる伊月の声を表情を思い出す。
〝よく来たな、黒子〟
〝いつもありがとう、黒子〟
〝黒子、雨は大丈夫だったか?〟
〝ちゃんと練習やってるか?〟
掛けてくれる声に変化はない。部活や試合で掛けてくれていた声と変わらない。
ただ、場所がバスケットコートから病室に移っただけだ。
笑顔も変わらない。チームメイトを心配し、気に掛ける笑顔。
変わったのは伊月の体の状態だ。
今までは元気に立ったり走っていたりしていたのが、ベッドに座って声を掛けてくる。最近は起き上がっているのも辛くなっているのか、ベッドのリクライニングを使って常に寄り掛かったまま起き上がっている状態だ。
それでもそんな状態でも伊月の表情と声は変わらない。
どんな精神力なのかと黒子は思わずにはいられない。
「行かないんですか?」
「……そうだな。こういうのはズルいよな」
「ズルいとか、そうじゃないです。伊月先輩はきっと来てほしいと思ってると思います」
「……」
「たぶん、行ってるのって僕と木吉先輩だけです」
黒子の言葉に日向は顔を上げる。
「一年はボクだけになりました。最初は火神君も一緒に行ってましたが行かなくなりました」
二年生も行っているのは木吉だけになっているのは、日向も知っていた。
黒子と火神の二人で行っていたと思っていたが、日中の木吉の言葉を思い出す。
〝そういえば、黒子も来てたぞ〟
火神もいればきっと黒子と火神と言っていたはずだ。
「行くのが怖い。それはボクも思いました。だけど、誰も行く人が居なくなって伊月先輩一人しかいない病室を想像すると、そっちの方が怖かったです」
日向は黒子の言葉にハッとする。
「たぶん、木吉先輩も同じだと思います。だから行けるときに行くんだと思います」
それにと、黒子は二号を抱き上げる。
「二号がいると、ホントに一瞬だけど笑ってくれるんです」
笑顔じゃなくて、笑ってくれるんですと、強調された言葉に日向は瞠目する。その言葉は深い意味がある。
「でも、病院に犬はマズイだろう」
「そうなんですけど、笑ってくれるのが嬉しいので連れて行きます」
「……そうか」
黒子の意思は固い。日向はせいぜいバレないようにしろよと、声を掛ける。
「俺も行ってみるよ」
「……はい」
部室を出ようとした黒子に日向は声を掛ける。
黒子はその言葉に少し笑みを浮かべて返事をした。
* * *
日向は次の土曜、練習終了後に居残り練習はせず、木吉とともに伊月の元へ向かった。
「日向か、久しぶりだな」
病室へ入り日向の存在に気付いた伊月は笑顔だ。
「主将だと忙しくて大変だろう」
「いや、まあ。去年と変わらんぞ」
「無理すんなよ」
以前と変わらない、声のトーンと表情で伊月は迎えてくれる。
日向はその事に安堵しつつ伊月の体を見て固まる。
長袖のパジャマから覗く手首の細さに、以前の伊月はどうだったと思いをめぐらせる。
「どうした? 日向」
「あ、いや」
ベッドサイドにある椅子を示して座れと促してくれる伊月に頷いて木吉の横に腰を下ろす。木吉の時とは明らかに違う。木吉にこんな弱弱しさが感じられなかった。やはり、木吉は膝以外は元気だったんだと痛感してしまう。
木吉が伊月に気付かれないように、日向の背中を叩く。日向は木吉を見ると普段と変わらず伊月を会話をしている。
本当に木吉はそういうことがうまい。
日向は気にすることを止め、木吉の話にのることにした。
「それじゃあ、そろそろ帰るわ」
話題もそこそこに日向と木吉は伊月に声を掛ける。
「ああ。気を付けて」
面会終了時間にはまだ早かったが、居続けても迷惑だろうと腰を上げる。
また来るからと告げて病室を後にする。
病院内の廊下を歩きながら、日向は大きく息を吐いた。伊月はいつも通りだった。それが日向と木吉を気遣ってのことだとわかってしまう。わかってしまうが、どうすることも出来ないまま病室を後にしてしまった。
「お前はやっぱすごいな」
「ん? そんなことはないさ」
日向が木吉に向けて声を掛ける。
さり気ない会話が出来る木吉に日向は助けられた。そうしてくれることで、自分もいつものように話をすることが出来た。
「あ。黒子だ」
「ん?」
向い側から黒子が歩いてきていた。黒子も日向と木吉に気付いたようだった。
「ども」
「おう」
近づいて会釈する黒子に木吉と日向も声を掛ける。
「もう、お帰りですか?」
「ああ。あまり居ても負担掛けるだけかと思ってな」
黒子はそうですかと、伊月の病室に向かおうと歩きだし日向と木吉もまたなと声を掛けて歩き出した。
伊月の病室の前に立ち黒子は深呼吸して扉をノックした。〝はい〟といつもならばすぐに声がするはずなのにと黒子は首を傾げながらもう一度ノックした。すると、今度は小さく返事がした。
その声を聞いて黒子はゆっくり扉を開け中を窺う。
「……あ。今度は黒子か、廊下で日向と木吉に会わなかったか?」
「会いました」
一瞬の違和感に黒子は躊躇ったがいつものように病室に入った。
伊月に近づいてその違和感がわかった。
いつものように笑顔で迎えてくれる伊月の目元が少し濡れている。ノックの返事が遅くになった理由がわかる。
きっと、一人で涙を流していたのだ。
これは誰にも知られたくない涙なのだろう。だから、ノックの後に慌てて拭ったに違いない。
黒子は意を決して、伊月に声を掛ける。
「……伊月、先輩」
「ん?」
二号をカバンからだし、伊月のベッドの上に乗せた。そしてそのまま、伊月の手を掴む。
「我慢、しないでください」
「……ッ」
黒子の言葉に瞠目して伊月は固まる。手を離そうとするが黒子はそれを許さない。
「な、なにを……」
「ボクはここで見たことを誰にも言いません」
黒子の言葉のせいなのか、触れられた手のぬくもりのせいだったのかわからないが、伊月の瞳からパタパタと涙が零れ落ちる。
「あっ……」
流すつもりはなかったのか伊月は慌てて空いている手で押さえようとするが、黒子はその前に伊月の頭を抱きしめる。抱きしめられた人のぬくもりに耐えられるわけはなく、伊月は声を殺して涙を流し続けた。黒子は何も言わずただ伊月の頭を抱きしめていた。
ひとしきり涙を流した伊月がゆっくり黒子から離れる。
「わ、悪かった……」
「いえ。こちらも強引にすいませんでした」
「でもどうして、俺なんかに……」
伊月は疑問だった。
木吉ですら毎週は来なかったのに、黒子は毎週欠かさずこの病院にやってきた。
「〝なんか〟じゃないです」
「……?」
「ボクは、伊月先輩が好きなんです。……好きな人が無理して笑顔で居続けるのは見ていて苦しいです。だけど苦しいのは伊月先輩自身です。辛いときには辛いと我慢しないで、泣きたい時には泣いた方がいいです」
黒子の告白に伊月は顔を上げる。
その表情は試合の時のように真剣で、伊月は目を奪われる。
「それに、信じてます。必ず治るって、だから待ってます」
伊月の手を握り、黒子は力強く言う。伊月はその握られた手に目を細める。
変わらない現状だけれど、心は少し軽くなっていた。
「帰ってきてください」
「……ああ。必ず、もう一度バスケットコートに立つ」
「はい」
けれど、その年のインターハイが終わっても伊月は退院することはなく、冬になりウインターカップが終わっても伊月がバスケ部には戻ってはこれなかった。
日向たち三年が引退し、黒子達二年と入ってきた一年だけのバスケ部になっても伊月は退院できなかった。
そして、その知らせはきた。
変わらず見舞いに来ていた黒子に伊月から伝えられた。
「ようやく、退院できそうだよ」
「……えっ」
年が明けて、寒さもようやく終わろうとしていた時だった。
伊月の言葉に黒子は驚いて目を見開く。待ちに待ったその言葉。
けれど、皮肉にも伊月の退院予定日は日向たち三年の卒業式だった。
「一緒に卒業することは出来なかったな」
伊月は出席日数の関係で日向たちと一緒に卒業は出来なかった。
残念そうに呟く声に黒子は伊月の手を握る。あの涙を見せた日以降、伊月は黒子の前で虚勢を張ることがなくなった。
素直に心の内を明かす伊月に黒子は黙って握る手を強める。
「……来年は一緒の学年だ」
目を細めて、伊月は黒子に告げた。先ほどの残念そうな表情はではなく笑顔だった。
その笑顔に虚勢などはなく、少し照れたものだった。その表情に黒子は一瞬瞠目したがすぐに笑顔を向けた。
「待っていました」
黒子は伊月に向けてキスをする。嬉しさと照れを含んだ優しいキスだった。
――黒子テツヤ、高校三年生の春。誠凛高校バスケ部に約一年ぶりに伊月俊の姿が戻った。
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