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Pixiv ⇒ いちばん深い夜と朝のあいだで 03
※パロ設定※
天使の高尾と死んで魂になってしまった緑間のお話の過去編です。
今回は直接的な死の表現をしています。
苦手な方はご注意ください。
⇒01 / 02
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天使の高尾と死んで魂になってしまった緑間のお話の過去編です。
今回は直接的な死の表現をしています。
苦手な方はご注意ください。
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みんなで集まってストバスした帰り。
高校三年だった高尾は信号無視してきた車に牽かれた。
「それじゃあ、真ちゃんまた明日、学校で」
「ああ。気をつけて帰るのだよ」
緑間は家の方向が一緒の黄瀬と一緒に高尾とは逆方向へと歩いていく。高尾はそれを少し見つめてから歩きだした。目の前の横断歩道の信号が青になって一歩を踏み出したときだった。
近づいてくるエンジン音に気付いて横を向いたときには車は目の前に来ていた。
そこで高尾の記憶は途切れている。
次に意識が浮上したときに、目の前にいた人物に高尾は驚いて声を出すことが出来なかった。
「久しぶりやな、高尾クン」
「ーーッ!」
「まあ、ビックリするんは、しゃあないけど」
高尾の反応に目の前の人物は当然だと苦笑している。
「い、いま、よしさん?」
高尾の前にいたのは病でこの世を去った今吉翔一だった。
「なんでっ……」
軽いパニックに陥っている高尾に落ち着きと今吉は言葉を掛ける。
「よう見てみ」
今吉は自身の頭上を指し示す。高尾は言われたとおり今吉の頭上を見る。そこには、俗に言う天使の輪が付いていた。
「ぷっ。はははは、似合わねえ……」
高尾は思わず笑ってしまった。天使のイメージとはかけ離れている今吉の頭に天使の輪というのに、高尾は笑いを堪えることが出来なかった。
「自分、笑いすぎやで。似合ってないのは、指摘されんでも自覚しとるわ」
失礼なやっちゃと呆れながら今吉は笑えるんやったら話進めるでと、高尾へと向き直る。
その言葉に高尾は反応し、少し前から思っていることを口にする。
「もしかして、俺ってば死んだり?」
「なんや、話早いのぉ」
「……いや、出来れば信じたくはないけど、状況証拠に直前の記憶からして助からなかったのかなぁとか」
「まあ、はっきり言うてしまえばそうや」
「そっかぁ。助からなかったのか」
「未練がありそうやな」
高尾は落胆する。死者である今吉が目の前にいることと、目覚める直前の記憶からして、高尾はあのまま車に牽かれて帰らぬ人になってしまったと、予想できた。
予想は出来るが、正直に言えば嘘であってほしい。まだたくさんやりたいことがあった。今吉の言葉通り未練はある。折角合格した大学にも行きたかったし、まだまだバスケもやりたい。何より、緑間と一緒に高校を卒業したかった。そんな生きていれば簡単に出来たことが、あの一瞬ですべて奪われてしまった。未練がない方がおかしいだろう。
「ま、当然の話やな」
今吉は事情を知っているだけに、高尾の心境も理解できるようだった。
「なかでも一番気になるんは緑間か?」
「よくご存じで」
食えない相手だと思っていたが、やはり死んでもそこは変わりがないみたいで、高尾はあえて問いかけない。
「未練がある人間はあの世へ連れて行けへんねん。死者を心おきなくあの世へ連れていくためにワイらがおるんや」
「ほな早速、緑間のところへ行こか」
高尾は今吉に導かれるままこの世へと向かった。
向かったのは大きな救急病院。
高尾は直感で事故にあった自分が運ばれた病院だと思った。今吉もそれを知っていてあえて高尾を連れてきたようだった。
「行けるか?」
死んだ自分の体があるということは、きっと緑間だけでなく家族もいるだろうことは、想像できる。どんな状況になっているのか見るのが怖い。そんな高尾の心は今吉にもわかったようで、気遣うように問いかける。無理に行こうとは言わない。けれど、このままでも前に進めないので高尾は大きく深呼吸をして頷いた。
「行きます」
病院内に入り廊下を通っていると見知った人影を見つけた。家族と緑間、そして一緒にいた黄瀬だ。緑間と黄瀬と事故直前でわかれた。高尾の事故の音に気付いて、ずっと病院まで来てくれたのだろう。すでに自身の訃報は聞かされているのだろう家族は涙している。
ちょうど集中治療室の外に高尾の遺体が運び出されるところだった。出てきたストレッチャーに乗せられた高尾に母と妹はすがりついて、泣き出した。
「……だよ」
「緑間っち?」
「何故なのだよ、高尾ッ……!」
唇を噛みしめ、何かを堪えようとしている緑間に黄瀬は言う言葉が見つからないようで、目を伏せる。
「……かおっ! なんでっ」
ついに抑えきれなくなった涙が緑間の頬を伝う。堪えようと手を額に当てるが、こぼれ落ちた涙は止まらずに緑間は泣き続けた。高尾は居てもたっても居られなくなって緑間のそばへ行き手を伸ばすが、触れることは出来ず緑間の体をすり抜ける。目の前に立っているはずなのに、気付いてはもらえない。当然のことなのだが、高尾の心を大きく抉る。
「真ちゃん、ごめん。泣かないでよ」
こんなに悲しんでもらえるくらいには、自分は緑間の信頼を得ていたのだと、嬉しくもある。そして生きているときに言いたかった自分の気持ちを伝えていなかった事への後悔に高尾は唇を噛みしめた。
「緑間君、黄瀬君……」
「おい、何がどうなって」
先ほどまで一緒にストバスをしていた黒子、火神、青峰が問いかけるが目の前の状況に言葉を失った。
「マジかよ……」
数時間前まで一緒にバスケをしていた人間が突然迎えた最後に三人は固まった。高尾はそんな状況を間近で見ながら何も出来ない事に涙を流した。
死んでしまった人間に出来ることは何もないのだと、痛感した。
* * *
高尾の通夜、告別式と滞りなく行われ緑間には日常が戻るはずだった。
ぽっかりと心に空いた穴は埋まることなく緑間は一人学校へ向かう。毎朝、見ていた顔はいつまで経ってもやってくる気配はなく、静かな朝だった。
『真ちゃーん、おはよー』
明るく自分に掛けられた声はもう二度と聞くことはないのだと痛感させられた。緑間はこみ上げてくるものを堪え前へ進んだ。
自身の教室へ向かう途中高尾のクラスの前を通る。机の上には菊の花が飾られている。それを見つめ緑間は眼鏡を上げる。そして教室へと再び歩きだした。
うるさいくらい傍にいた存在。
横に居るのがいつの間にか当たり前になっていて、自分のワガママを笑顔で受け入れて、楽しそうに笑っていた。
バスケが大好きで、緑間を驚かすパスをしてみせると豪語して練習をしていた姿は今でも忘れられない。勝利したときの喜び、負けたときの悔しさ涙を流した姿さえ色褪せることなく緑間の中にある。
『真ちゃん』
名前を呼ぶ声が聞こえ振り返るが、誰もいない。
「あ……」
こぼれ落ちてくるものに焦って走り出す。この学校には思い出がありすぎる。嫌でも思い出してしまう。
そして、気付かされる。
自分がどれほど高尾を特別に思っていたのか。
傍にいることが当たり前になっていて、失って気付く。
「……かぉッ」
屋上にたどり着きそのまま崩れ落ちる。本当の気持ちを伝えることが出来ないまま永遠の別れを迎えてしまった。
言いたいことがいっぱいあった。
どれももう高尾には届かない。
止まることのない涙に緑間は肩を震わせてただただ泣いた。
緑間は涙が止まっても教室には行かず屋上にいた。人生で初めて授業をサボった。漠然と思いながらも動くことが出来なかった。
目元は泣き腫らしたまま呆然と空を見上げる。不意によぎる高尾の声に、再び涙がこぼれる。
今日はこのまま家に帰ろうかと思い立ち上がる。
学校にいるのが辛すぎる。学校の至る所がすべて高尾との思い出だ。
緑間の高校生活はすべて高尾と過ごしたのだから、当然といえば当然だった。
「……高尾」
呼んでも返ってくる声はない。緑間は再び涙をこぼした。
緑間を見つめ高尾は拳を握りしめる。
自分が死んで悲しんでくれるのは嬉しい、けれどこのままでは緑間は悲しみに潰されてしまう。そんな懸念が高尾を襲う。
ひとしきり泣いて前を向いて欲しい。
けれど、緑間は高尾が死んで以降、泣き通しだ。
自分との思い出が辛いのならいっそ消してでも前を向いて欲しい。
緑間真太郎はどんなときも人事を尽くし前を向き続ける。
自分が足枷になってしまってはいけない。吹っ切って前を向いてと願う。前を向くのに自分との思い出が邪魔ならばなくしてでもいい。
「……真ちゃん」
「どないする?」
もう二週間になるでと、今吉が後ろから高尾に声を掛ける。
「時間が解決してくれるはずやと、言いたいところやけど難しそうやな」
今吉でも感じるのか、高尾に対し気遣う言葉を掛ける。
それほどに緑間は憔悴していた。
「あまり、長いことおられへんで」
「……」
「あの状態が心配なんは、わかるけど」
高尾にタイムリミットがあると今吉は教えてくれる。一ヶ月経過してしまったら、地縛霊になってしまうらしくそれまでにあの世に行かなくてはならない。けれど、緑間をこのままにはいけないというのが、高尾の本音だ。それは今吉もわかっているようで、無理に行こうとは言わない。
「今吉さん」
「なんや」
「記憶って消せたり出来るんですか?」
「……は?」
このままでは、緑間は壊れてしまいそうだ。ならば原因の自分との記憶を消せればと高尾は考えた。
「出来んことはないけど、それを緑間が望んでると思うか?」
「……思わない、思わないけどッ」
高尾和成という人物を忘れて、緑間がこの先の人生をちゃんと送れるのならば消えた方がマシだと高尾は思う。
たとえそれを緑間自身が望んでなかったとしても、死んでしまった自分に出来ることはこれ以外ない。
「消してしもうたら、もう二度と思い出すことはないで?」
それでもええんか? と、問いかける今吉の目は真剣だ。これだけ悲しんでもらえたのだ、もう充分だ。
「いいです。消してください」
――ごめん、真ちゃん……生きて、幸せになって……
その夜、高尾の願いどおり緑間から高尾に関する記憶が消された。
高尾の流した涙は、今吉しか知らない。
* * *
天国へと向かう途中。
「なあ、今吉さん」
「なんや?」
吹っ切れた表情の高尾を振り返り今吉が問いかける。
「その天使っての、俺もなれたりする?」
「は?」
高尾の言葉に今吉は眉間に皺を寄せる。
「なれんこともないけど、難しいで」
頭、良かったんかと、問いかけられて高尾は一応と言葉を返す。
「大学には自力で入ったんで、人並みにはあると思いますよ」
「なら、頑張り」
今吉は高尾の意図がわかっていたが、あえてなりたい理由は聞かずにいた。
天使になる最大の特権はあの世とこの世の行き来が可能になる。
そうなれば、この世に残した人を見守ることが出来る。
それは少し辛いけれど、死んでしまった人間が最後にできることだ。
一年後、高尾は天使になる。
高校三年だった高尾は信号無視してきた車に牽かれた。
「それじゃあ、真ちゃんまた明日、学校で」
「ああ。気をつけて帰るのだよ」
緑間は家の方向が一緒の黄瀬と一緒に高尾とは逆方向へと歩いていく。高尾はそれを少し見つめてから歩きだした。目の前の横断歩道の信号が青になって一歩を踏み出したときだった。
近づいてくるエンジン音に気付いて横を向いたときには車は目の前に来ていた。
そこで高尾の記憶は途切れている。
次に意識が浮上したときに、目の前にいた人物に高尾は驚いて声を出すことが出来なかった。
「久しぶりやな、高尾クン」
「ーーッ!」
「まあ、ビックリするんは、しゃあないけど」
高尾の反応に目の前の人物は当然だと苦笑している。
「い、いま、よしさん?」
高尾の前にいたのは病でこの世を去った今吉翔一だった。
「なんでっ……」
軽いパニックに陥っている高尾に落ち着きと今吉は言葉を掛ける。
「よう見てみ」
今吉は自身の頭上を指し示す。高尾は言われたとおり今吉の頭上を見る。そこには、俗に言う天使の輪が付いていた。
「ぷっ。はははは、似合わねえ……」
高尾は思わず笑ってしまった。天使のイメージとはかけ離れている今吉の頭に天使の輪というのに、高尾は笑いを堪えることが出来なかった。
「自分、笑いすぎやで。似合ってないのは、指摘されんでも自覚しとるわ」
失礼なやっちゃと呆れながら今吉は笑えるんやったら話進めるでと、高尾へと向き直る。
その言葉に高尾は反応し、少し前から思っていることを口にする。
「もしかして、俺ってば死んだり?」
「なんや、話早いのぉ」
「……いや、出来れば信じたくはないけど、状況証拠に直前の記憶からして助からなかったのかなぁとか」
「まあ、はっきり言うてしまえばそうや」
「そっかぁ。助からなかったのか」
「未練がありそうやな」
高尾は落胆する。死者である今吉が目の前にいることと、目覚める直前の記憶からして、高尾はあのまま車に牽かれて帰らぬ人になってしまったと、予想できた。
予想は出来るが、正直に言えば嘘であってほしい。まだたくさんやりたいことがあった。今吉の言葉通り未練はある。折角合格した大学にも行きたかったし、まだまだバスケもやりたい。何より、緑間と一緒に高校を卒業したかった。そんな生きていれば簡単に出来たことが、あの一瞬ですべて奪われてしまった。未練がない方がおかしいだろう。
「ま、当然の話やな」
今吉は事情を知っているだけに、高尾の心境も理解できるようだった。
「なかでも一番気になるんは緑間か?」
「よくご存じで」
食えない相手だと思っていたが、やはり死んでもそこは変わりがないみたいで、高尾はあえて問いかけない。
「未練がある人間はあの世へ連れて行けへんねん。死者を心おきなくあの世へ連れていくためにワイらがおるんや」
「ほな早速、緑間のところへ行こか」
高尾は今吉に導かれるままこの世へと向かった。
向かったのは大きな救急病院。
高尾は直感で事故にあった自分が運ばれた病院だと思った。今吉もそれを知っていてあえて高尾を連れてきたようだった。
「行けるか?」
死んだ自分の体があるということは、きっと緑間だけでなく家族もいるだろうことは、想像できる。どんな状況になっているのか見るのが怖い。そんな高尾の心は今吉にもわかったようで、気遣うように問いかける。無理に行こうとは言わない。けれど、このままでも前に進めないので高尾は大きく深呼吸をして頷いた。
「行きます」
病院内に入り廊下を通っていると見知った人影を見つけた。家族と緑間、そして一緒にいた黄瀬だ。緑間と黄瀬と事故直前でわかれた。高尾の事故の音に気付いて、ずっと病院まで来てくれたのだろう。すでに自身の訃報は聞かされているのだろう家族は涙している。
ちょうど集中治療室の外に高尾の遺体が運び出されるところだった。出てきたストレッチャーに乗せられた高尾に母と妹はすがりついて、泣き出した。
「……だよ」
「緑間っち?」
「何故なのだよ、高尾ッ……!」
唇を噛みしめ、何かを堪えようとしている緑間に黄瀬は言う言葉が見つからないようで、目を伏せる。
「……かおっ! なんでっ」
ついに抑えきれなくなった涙が緑間の頬を伝う。堪えようと手を額に当てるが、こぼれ落ちた涙は止まらずに緑間は泣き続けた。高尾は居てもたっても居られなくなって緑間のそばへ行き手を伸ばすが、触れることは出来ず緑間の体をすり抜ける。目の前に立っているはずなのに、気付いてはもらえない。当然のことなのだが、高尾の心を大きく抉る。
「真ちゃん、ごめん。泣かないでよ」
こんなに悲しんでもらえるくらいには、自分は緑間の信頼を得ていたのだと、嬉しくもある。そして生きているときに言いたかった自分の気持ちを伝えていなかった事への後悔に高尾は唇を噛みしめた。
「緑間君、黄瀬君……」
「おい、何がどうなって」
先ほどまで一緒にストバスをしていた黒子、火神、青峰が問いかけるが目の前の状況に言葉を失った。
「マジかよ……」
数時間前まで一緒にバスケをしていた人間が突然迎えた最後に三人は固まった。高尾はそんな状況を間近で見ながら何も出来ない事に涙を流した。
死んでしまった人間に出来ることは何もないのだと、痛感した。
* * *
高尾の通夜、告別式と滞りなく行われ緑間には日常が戻るはずだった。
ぽっかりと心に空いた穴は埋まることなく緑間は一人学校へ向かう。毎朝、見ていた顔はいつまで経ってもやってくる気配はなく、静かな朝だった。
『真ちゃーん、おはよー』
明るく自分に掛けられた声はもう二度と聞くことはないのだと痛感させられた。緑間はこみ上げてくるものを堪え前へ進んだ。
自身の教室へ向かう途中高尾のクラスの前を通る。机の上には菊の花が飾られている。それを見つめ緑間は眼鏡を上げる。そして教室へと再び歩きだした。
うるさいくらい傍にいた存在。
横に居るのがいつの間にか当たり前になっていて、自分のワガママを笑顔で受け入れて、楽しそうに笑っていた。
バスケが大好きで、緑間を驚かすパスをしてみせると豪語して練習をしていた姿は今でも忘れられない。勝利したときの喜び、負けたときの悔しさ涙を流した姿さえ色褪せることなく緑間の中にある。
『真ちゃん』
名前を呼ぶ声が聞こえ振り返るが、誰もいない。
「あ……」
こぼれ落ちてくるものに焦って走り出す。この学校には思い出がありすぎる。嫌でも思い出してしまう。
そして、気付かされる。
自分がどれほど高尾を特別に思っていたのか。
傍にいることが当たり前になっていて、失って気付く。
「……かぉッ」
屋上にたどり着きそのまま崩れ落ちる。本当の気持ちを伝えることが出来ないまま永遠の別れを迎えてしまった。
言いたいことがいっぱいあった。
どれももう高尾には届かない。
止まることのない涙に緑間は肩を震わせてただただ泣いた。
緑間は涙が止まっても教室には行かず屋上にいた。人生で初めて授業をサボった。漠然と思いながらも動くことが出来なかった。
目元は泣き腫らしたまま呆然と空を見上げる。不意によぎる高尾の声に、再び涙がこぼれる。
今日はこのまま家に帰ろうかと思い立ち上がる。
学校にいるのが辛すぎる。学校の至る所がすべて高尾との思い出だ。
緑間の高校生活はすべて高尾と過ごしたのだから、当然といえば当然だった。
「……高尾」
呼んでも返ってくる声はない。緑間は再び涙をこぼした。
緑間を見つめ高尾は拳を握りしめる。
自分が死んで悲しんでくれるのは嬉しい、けれどこのままでは緑間は悲しみに潰されてしまう。そんな懸念が高尾を襲う。
ひとしきり泣いて前を向いて欲しい。
けれど、緑間は高尾が死んで以降、泣き通しだ。
自分との思い出が辛いのならいっそ消してでも前を向いて欲しい。
緑間真太郎はどんなときも人事を尽くし前を向き続ける。
自分が足枷になってしまってはいけない。吹っ切って前を向いてと願う。前を向くのに自分との思い出が邪魔ならばなくしてでもいい。
「……真ちゃん」
「どないする?」
もう二週間になるでと、今吉が後ろから高尾に声を掛ける。
「時間が解決してくれるはずやと、言いたいところやけど難しそうやな」
今吉でも感じるのか、高尾に対し気遣う言葉を掛ける。
それほどに緑間は憔悴していた。
「あまり、長いことおられへんで」
「……」
「あの状態が心配なんは、わかるけど」
高尾にタイムリミットがあると今吉は教えてくれる。一ヶ月経過してしまったら、地縛霊になってしまうらしくそれまでにあの世に行かなくてはならない。けれど、緑間をこのままにはいけないというのが、高尾の本音だ。それは今吉もわかっているようで、無理に行こうとは言わない。
「今吉さん」
「なんや」
「記憶って消せたり出来るんですか?」
「……は?」
このままでは、緑間は壊れてしまいそうだ。ならば原因の自分との記憶を消せればと高尾は考えた。
「出来んことはないけど、それを緑間が望んでると思うか?」
「……思わない、思わないけどッ」
高尾和成という人物を忘れて、緑間がこの先の人生をちゃんと送れるのならば消えた方がマシだと高尾は思う。
たとえそれを緑間自身が望んでなかったとしても、死んでしまった自分に出来ることはこれ以外ない。
「消してしもうたら、もう二度と思い出すことはないで?」
それでもええんか? と、問いかける今吉の目は真剣だ。これだけ悲しんでもらえたのだ、もう充分だ。
「いいです。消してください」
――ごめん、真ちゃん……生きて、幸せになって……
その夜、高尾の願いどおり緑間から高尾に関する記憶が消された。
高尾の流した涙は、今吉しか知らない。
* * *
天国へと向かう途中。
「なあ、今吉さん」
「なんや?」
吹っ切れた表情の高尾を振り返り今吉が問いかける。
「その天使っての、俺もなれたりする?」
「は?」
高尾の言葉に今吉は眉間に皺を寄せる。
「なれんこともないけど、難しいで」
頭、良かったんかと、問いかけられて高尾は一応と言葉を返す。
「大学には自力で入ったんで、人並みにはあると思いますよ」
「なら、頑張り」
今吉は高尾の意図がわかっていたが、あえてなりたい理由は聞かずにいた。
天使になる最大の特権はあの世とこの世の行き来が可能になる。
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それは少し辛いけれど、死んでしまった人間が最後にできることだ。
一年後、高尾は天使になる。
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