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森山は伊月とともに学校を出ようと昇降口に向かう。
誰もいない校内は静かで二人が歩く足音しかない。
外を確認してみれば雨はすっかり小降りになっていて傘がなくてもいいぐらいになっていた。
「もう少しで止みそうだね」
「そうですね、さっきまでのが嘘みたい……」
森山の何でもない言葉に軽く返せる程度には伊月も復活したようで目元が少し赤くなってはいるが元気そうだった。
「着替えたけど、寒くはない?」
「はい。大丈夫です」
その言葉がなんとなく無理しているのはわかった。
ここで素直に寒いとか冷えていると口に出来るほど伊月は素直ではないし、甘え上手でもないのだろうと、察することが出来るくらいにこの少しの関わりで伊月という人物像が見えてきていた。
「無理はしなくていいよ」
「む、無理なんて……」
「唇……青くなってるよ」
森山の指摘に伊月は勢い良く唇を手で隠す。
「あれだけ雨に濡れたんだから、当たり前だよ。まあ、聞いた手前、暖めてあげることは出来ないけどさ」
そう言って伊月の頭を撫でる。
少し湿っている髪の毛にちゃんと乾かしてあげたいけれど、先程伊月に貸したタオル以外、手持ちがなく森山は心の中で舌打ちをする。
これは、マジバーガーに付き合わせずに早く家に帰すべきだったかと考えるが、気遣い屋の伊月に余計な気を使わすだけだと思い外へと出る。
傘をさして伊月に差し出す。
「え?」
「これ以上濡れるとよくないから、念のためにさしておきな」
「でも、森山さんは?」
「俺は平気濡れてないし」
笑顔で傘を渡され伊月はお礼を言って傘をさした。
森山はその横を歩く。
傘で伊月の表情は見えないがいつもの調子に戻りつつあるように見受けられて森山は少なからず安堵した。
あそこまで涙してしまうほどに、伊月が何を抱えているのか森山にはわかりかねるが、少なからず伊月にとって抱えきることが出来なかった結果があの涙なのだろう。
森山はマジバーガーへ向かいながら、伊月に声を掛けた。
「伊月は何が好き?」
「えっ」
森山が屈んで伊月の顔を見てマジバーガーのメニューで何が好きか聞いた。
突然の問いに驚いていた伊月が少し考えて口を開く。
「えっと、チーズが好きです」
「そっか。飲み物は?」
「飲み物ですか? いつもはアイスコーヒーを頼みます」
なるほどチーズとアイスコーヒーねと、森山は伊月の言ったメニューを反芻する。
伊月が傘をずらして、森山を横目で確認しているので、笑みを返す。
なんでそんなことを聞いてきたのか不思議そうな表情をしているが、森山は気にせず目的地まで歩いた。
マジバーガーの店内に先に入り、森山が注文し始める。
伊月はその後ろで森山が終わるのを待っている。
森山はそれを確認しながら店員が後ろにいる伊月を別のレジに呼ぼうとするのを小さく断って一緒に注文しちゃうんでと小声で言う。
伊月は横に掲示してあるキャンペーンのポスターを見ていて気づいていない。
森山はそのまま先程聞いた伊月のメニューも頼んで会計を済ませた頃に伊月がようやく事の次第に気付いて慌てている。
森山に声を掛けようとするが、店員とやりとりをしてしまって声を掛けられずどうしようと目を泳がせてしまっている伊月を心の中で可愛いなと思いながら二人分の注文したメニューの乗ったトレイを持つ。
「はい。じゃ、行こう」
そのまま席に行こうと歩きだしたが、伊月が慌てて声を掛けてくる。
森山は気にしないでいいのにと思いながら伊月の言葉を待つ。
「あ、あのっ、お金払います」
慌てて財布を出そうとする伊月に森山は手で制する。
「つきあってもらったし、それに、一応年上だし今日は奢るよ」
「……でも」
「いいのいいの。ほら、座ろう」
空いてる席を見つけ森山が座ると、伊月も観念して席に座る。
「ありがとうございます」
目の前に出されたバーガーのセットにお礼を言う伊月に森山は笑顔で食べようとポテトを口に入れる。
そして、もう一つ聞いておかないと携帯を取り出す。
「そうだ。伊月、メルアド教えて」
「えっ?」
どうしてという感じで伊月が首を傾げるので、森山は笑顔で口を開く。
「タオル。洗って返してくれるんだろう?」
連絡先知らないと日時合わせられないよと、森山が続ければ伊月も気付いたようで、慌てて携帯を取り出す。
「そうですね」
携帯を操作して連絡先の交換をする。
伊月は登録された携帯の画面を見つめている。
「よしたか、さん? 漢字はこう書くんですね」
「そう、下の名前ね」
伊月はしゅんでいいの? と森山も登録された伊月の名前を見る。
「はい、そうです」
互いに姓は覚えていたが下の名前までは覚えていなかったと思う。
「後で試しにメールしてみるね」
「はい」
森山が携帯を振り確認も兼ねてメールすると伝えると伊月は笑顔で頷いた。
その後の会話は終始WC予選の話になった。
海常は神奈川県で行われており、伊月の誠凜は東京で地区が違う。
また対戦するためにはお互いがWCへと出場しなければならない。
夏のIHは叶わなかったが、誠凜にはインサイドの要である木吉が復帰しチームに厚みが出たようで、伊月はそれを嬉しそうにだけど、少し寂しそうに言っていたのが森山には気になった。
チームメイトの復帰、しかもチームにとってエースだったのだ、同ポジションならレギュラーの交代が余儀なくされるだろうが、伊月と木吉ではポジションも違うのでそういった事もないだろうし、何がそんな寂しそうに話すのか森山は心の中で首を傾げた。
途中、黙り込んでしまったりしている伊月を見て木吉の復帰が何か影を落としているのだろうかと推察する。
「伊月?」
「あ、いえ、なんでもないです」
無言で何か考えてしまう伊月に声を掛けその思考を止めさせる。
考え込んでしまってはきっとマイナスにしか思考は進まない。
明日以降の伊月が少し心配になりながら森山は話を続けた。
* * *
ハンバーガーを食べ終えて、店外へ出ると雨は止み少しだけ明るくなっていた。
雨が止んだのは良いが傘が邪魔だなと森山は思いながら少し後ろにいる伊月を振り返る。
「俺は駅に向かうけど、伊月は?」
「ここから、歩いて帰ります」
だけど、途中までは一緒ですと付け足される。
森山はじゃあ、行こうかと歩き出せば少し小さな体が横に来る。
高校生にしては十分な身長だが、バスケをやるには小柄になってしまうだろう。
事実、一八○ある自分でさえコートの中では小さいと感じてしまうのだから、一七○前半の伊月には高すぎる世界だろう。
テクニックがいくら重要だといっても身長差があればそれだけ不利になるスポーツだ。
それでもPGとしてチームを仕切らなければいけないのだから、気苦労もあるだろうし、なにより自分自身に劣等感を抱きやすいのかもしれない。
バスケを好きだからこそ、バスケに愛されている選手を見るのは辛いものがあるのかもしれない。
木吉の復帰でそう感じることがあるのか、それとも新しく入ってきた一年コンビなのか森山には全容を知ることは出来ない。
けれど、伊月が抱え込んでいる問題の一端ではあるんだろうなと思う。
努力だけではどうにも埋まることのない差に、どう折り合いをつけるのかつけなければいけないのか、それは森山にもある問題だ。
キセキの世代がチームに入ってそれは強く感じている。
同じ練習量で成長度合いに差があるのは当然だが果てしない差を見せつけられて落ち込まない人間はいないだろう。
まして大好きなものならば余計に。
だから誰に話すことも出来ず、こうやって人知れず涙を流して苦しさを吐き出すしか出来ないのかと、森山はそう考えて少し心で苦笑しながら伊月に声を掛けた。
「そうだ。メールだけどタオル返す為の予定の話だけじゃなくていいからさ、普段から気軽にしていいから」
「……?」
「ここで知り合ったのも何かの縁だろうし、他愛ない日常でも良いし、楽しかったことに面白かったこと。勉強でわからなかったところとか些細なことでいいからさ」
「俺の日常ってダジャレばっかりですよ?」
笑いながら伊月が言う。
それはあながち嘘ではないのだろうと森山は思う。
先ほどまでいたマジバーガーでも、突然伊月のダジャレは出てきた。
森山は一瞬何が起きたのかと固まってしまった。そんな森山を知ってか知らずか伊月は何かメモ帳に書き込んでいた。
その一連の流れは手慣れたものだった。
思い出しながら笑みを浮かべ森山は続けた。
「それでもいいよ。秀逸なのが出来たときとかさ。今日、伊月と話してて楽しかったからさ」
じっくり話してみて、海常にはいないタイプの後輩だと思った。
それこそ海常は暑苦しいくらいにうるさいのだったり、キラキラ無駄に目立つのがいたり、つっこみが蹴りだったりする人と、普通の会話が出来ないわけではないが、色々と個性が目立つチームだ。
その中にいるせいなのかわからないが、伊月との話は少し新鮮で聞いていて面白かった。
森山はそれとと、続けて立ち止まった。
「……そんなメールと一緒に、チームの子に言えないこととかさ、そういうのもしていいから。そういう時ってあるでしょ? ただ言いたいだけとか、吐き出したいときにメールして」
きっと、伊月は自分の弱みは見せられないのもあるのだろうが、何より迷惑に思われることは口に出来ないタイプなんだろうなと思う。
その言葉を誤魔化すようにダジャレを言うことも中にはあるんだろうなと森山は推察する。
伊月の表情をみて、森山はあながち間違いではないのだろうと思う。
「そん、な……」
「同じチームだからこそ言えないこともあるだろう?」
それを受け止められるくらいには伊月よりも大人だと思うしと、森山は続けた。
「言われたことは誰にも言わない。約束するよ」
「あ……」
こういう事に気付くことが出来るはずの先輩が誠凜にはいない。
同級生が気付くことはおそらくないのだろうから、こんな言葉を掛けられる事もないに違いない。
常に伊月達が年上で先輩としてしっかりしていなければならない。そうして強くあり続けるには自分の苦しみや弱さを吐き出せる場所が必要になる。
その場所がないのなら、自分がなってあげるくらいには伊月より大人だ。
頼れる先輩がいる環境は学生生活に必要だ。
それがないのならなってあげればいいだけの話だ。
「メールに書けないなら電話でもいいし、こうやって会って話してもいい。心が悲鳴を上げる前に外にちゃんと吐き出しな」
「そんな迷惑掛けられません」
伊月は首を横に振って俯く。
「迷惑……とは思わないよ。そもそも、迷惑だと思ってたらそんな提案自体しないしね」
森山は伊月を見つめ目元をゆるめる。
「放っておけない。また、一人でため込んで一人で泣いてるんじゃないかって心配になる」
伊月の心の闇の吐き出す場所になるよと言ってくれる森山に伊月は無言で首を横に振り続ける。
「自分でも今気づいたんだけど、俺って意外と世話焼きだったみたい」
「……」
「だから、伊月が気にすることはないよ」
森山はそう言って伊月を見れば目元に涙が溜まっていた。
こぼれ落ちた雫に森山は手を伸ばす。
触れた指に慌てる伊月に森山はそのままでいいよと言葉を添えて目元に顔を近づけそのまま森山は伊月の瞼にキスをする。
自分でも無意識の行動に驚きながら伊月を見れば目を見開き驚いている。
「こうすると、涙止まるでしょ」
笑って言えば伊月は目元に手を触れてホントだと少しはにかんだ。
その表情に森山は目を離すことができなかった。
この日から森山由孝と伊月俊の関係が始まった。
誰もいない校内は静かで二人が歩く足音しかない。
外を確認してみれば雨はすっかり小降りになっていて傘がなくてもいいぐらいになっていた。
「もう少しで止みそうだね」
「そうですね、さっきまでのが嘘みたい……」
森山の何でもない言葉に軽く返せる程度には伊月も復活したようで目元が少し赤くなってはいるが元気そうだった。
「着替えたけど、寒くはない?」
「はい。大丈夫です」
その言葉がなんとなく無理しているのはわかった。
ここで素直に寒いとか冷えていると口に出来るほど伊月は素直ではないし、甘え上手でもないのだろうと、察することが出来るくらいにこの少しの関わりで伊月という人物像が見えてきていた。
「無理はしなくていいよ」
「む、無理なんて……」
「唇……青くなってるよ」
森山の指摘に伊月は勢い良く唇を手で隠す。
「あれだけ雨に濡れたんだから、当たり前だよ。まあ、聞いた手前、暖めてあげることは出来ないけどさ」
そう言って伊月の頭を撫でる。
少し湿っている髪の毛にちゃんと乾かしてあげたいけれど、先程伊月に貸したタオル以外、手持ちがなく森山は心の中で舌打ちをする。
これは、マジバーガーに付き合わせずに早く家に帰すべきだったかと考えるが、気遣い屋の伊月に余計な気を使わすだけだと思い外へと出る。
傘をさして伊月に差し出す。
「え?」
「これ以上濡れるとよくないから、念のためにさしておきな」
「でも、森山さんは?」
「俺は平気濡れてないし」
笑顔で傘を渡され伊月はお礼を言って傘をさした。
森山はその横を歩く。
傘で伊月の表情は見えないがいつもの調子に戻りつつあるように見受けられて森山は少なからず安堵した。
あそこまで涙してしまうほどに、伊月が何を抱えているのか森山にはわかりかねるが、少なからず伊月にとって抱えきることが出来なかった結果があの涙なのだろう。
森山はマジバーガーへ向かいながら、伊月に声を掛けた。
「伊月は何が好き?」
「えっ」
森山が屈んで伊月の顔を見てマジバーガーのメニューで何が好きか聞いた。
突然の問いに驚いていた伊月が少し考えて口を開く。
「えっと、チーズが好きです」
「そっか。飲み物は?」
「飲み物ですか? いつもはアイスコーヒーを頼みます」
なるほどチーズとアイスコーヒーねと、森山は伊月の言ったメニューを反芻する。
伊月が傘をずらして、森山を横目で確認しているので、笑みを返す。
なんでそんなことを聞いてきたのか不思議そうな表情をしているが、森山は気にせず目的地まで歩いた。
マジバーガーの店内に先に入り、森山が注文し始める。
伊月はその後ろで森山が終わるのを待っている。
森山はそれを確認しながら店員が後ろにいる伊月を別のレジに呼ぼうとするのを小さく断って一緒に注文しちゃうんでと小声で言う。
伊月は横に掲示してあるキャンペーンのポスターを見ていて気づいていない。
森山はそのまま先程聞いた伊月のメニューも頼んで会計を済ませた頃に伊月がようやく事の次第に気付いて慌てている。
森山に声を掛けようとするが、店員とやりとりをしてしまって声を掛けられずどうしようと目を泳がせてしまっている伊月を心の中で可愛いなと思いながら二人分の注文したメニューの乗ったトレイを持つ。
「はい。じゃ、行こう」
そのまま席に行こうと歩きだしたが、伊月が慌てて声を掛けてくる。
森山は気にしないでいいのにと思いながら伊月の言葉を待つ。
「あ、あのっ、お金払います」
慌てて財布を出そうとする伊月に森山は手で制する。
「つきあってもらったし、それに、一応年上だし今日は奢るよ」
「……でも」
「いいのいいの。ほら、座ろう」
空いてる席を見つけ森山が座ると、伊月も観念して席に座る。
「ありがとうございます」
目の前に出されたバーガーのセットにお礼を言う伊月に森山は笑顔で食べようとポテトを口に入れる。
そして、もう一つ聞いておかないと携帯を取り出す。
「そうだ。伊月、メルアド教えて」
「えっ?」
どうしてという感じで伊月が首を傾げるので、森山は笑顔で口を開く。
「タオル。洗って返してくれるんだろう?」
連絡先知らないと日時合わせられないよと、森山が続ければ伊月も気付いたようで、慌てて携帯を取り出す。
「そうですね」
携帯を操作して連絡先の交換をする。
伊月は登録された携帯の画面を見つめている。
「よしたか、さん? 漢字はこう書くんですね」
「そう、下の名前ね」
伊月はしゅんでいいの? と森山も登録された伊月の名前を見る。
「はい、そうです」
互いに姓は覚えていたが下の名前までは覚えていなかったと思う。
「後で試しにメールしてみるね」
「はい」
森山が携帯を振り確認も兼ねてメールすると伝えると伊月は笑顔で頷いた。
その後の会話は終始WC予選の話になった。
海常は神奈川県で行われており、伊月の誠凜は東京で地区が違う。
また対戦するためにはお互いがWCへと出場しなければならない。
夏のIHは叶わなかったが、誠凜にはインサイドの要である木吉が復帰しチームに厚みが出たようで、伊月はそれを嬉しそうにだけど、少し寂しそうに言っていたのが森山には気になった。
チームメイトの復帰、しかもチームにとってエースだったのだ、同ポジションならレギュラーの交代が余儀なくされるだろうが、伊月と木吉ではポジションも違うのでそういった事もないだろうし、何がそんな寂しそうに話すのか森山は心の中で首を傾げた。
途中、黙り込んでしまったりしている伊月を見て木吉の復帰が何か影を落としているのだろうかと推察する。
「伊月?」
「あ、いえ、なんでもないです」
無言で何か考えてしまう伊月に声を掛けその思考を止めさせる。
考え込んでしまってはきっとマイナスにしか思考は進まない。
明日以降の伊月が少し心配になりながら森山は話を続けた。
* * *
ハンバーガーを食べ終えて、店外へ出ると雨は止み少しだけ明るくなっていた。
雨が止んだのは良いが傘が邪魔だなと森山は思いながら少し後ろにいる伊月を振り返る。
「俺は駅に向かうけど、伊月は?」
「ここから、歩いて帰ります」
だけど、途中までは一緒ですと付け足される。
森山はじゃあ、行こうかと歩き出せば少し小さな体が横に来る。
高校生にしては十分な身長だが、バスケをやるには小柄になってしまうだろう。
事実、一八○ある自分でさえコートの中では小さいと感じてしまうのだから、一七○前半の伊月には高すぎる世界だろう。
テクニックがいくら重要だといっても身長差があればそれだけ不利になるスポーツだ。
それでもPGとしてチームを仕切らなければいけないのだから、気苦労もあるだろうし、なにより自分自身に劣等感を抱きやすいのかもしれない。
バスケを好きだからこそ、バスケに愛されている選手を見るのは辛いものがあるのかもしれない。
木吉の復帰でそう感じることがあるのか、それとも新しく入ってきた一年コンビなのか森山には全容を知ることは出来ない。
けれど、伊月が抱え込んでいる問題の一端ではあるんだろうなと思う。
努力だけではどうにも埋まることのない差に、どう折り合いをつけるのかつけなければいけないのか、それは森山にもある問題だ。
キセキの世代がチームに入ってそれは強く感じている。
同じ練習量で成長度合いに差があるのは当然だが果てしない差を見せつけられて落ち込まない人間はいないだろう。
まして大好きなものならば余計に。
だから誰に話すことも出来ず、こうやって人知れず涙を流して苦しさを吐き出すしか出来ないのかと、森山はそう考えて少し心で苦笑しながら伊月に声を掛けた。
「そうだ。メールだけどタオル返す為の予定の話だけじゃなくていいからさ、普段から気軽にしていいから」
「……?」
「ここで知り合ったのも何かの縁だろうし、他愛ない日常でも良いし、楽しかったことに面白かったこと。勉強でわからなかったところとか些細なことでいいからさ」
「俺の日常ってダジャレばっかりですよ?」
笑いながら伊月が言う。
それはあながち嘘ではないのだろうと森山は思う。
先ほどまでいたマジバーガーでも、突然伊月のダジャレは出てきた。
森山は一瞬何が起きたのかと固まってしまった。そんな森山を知ってか知らずか伊月は何かメモ帳に書き込んでいた。
その一連の流れは手慣れたものだった。
思い出しながら笑みを浮かべ森山は続けた。
「それでもいいよ。秀逸なのが出来たときとかさ。今日、伊月と話してて楽しかったからさ」
じっくり話してみて、海常にはいないタイプの後輩だと思った。
それこそ海常は暑苦しいくらいにうるさいのだったり、キラキラ無駄に目立つのがいたり、つっこみが蹴りだったりする人と、普通の会話が出来ないわけではないが、色々と個性が目立つチームだ。
その中にいるせいなのかわからないが、伊月との話は少し新鮮で聞いていて面白かった。
森山はそれとと、続けて立ち止まった。
「……そんなメールと一緒に、チームの子に言えないこととかさ、そういうのもしていいから。そういう時ってあるでしょ? ただ言いたいだけとか、吐き出したいときにメールして」
きっと、伊月は自分の弱みは見せられないのもあるのだろうが、何より迷惑に思われることは口に出来ないタイプなんだろうなと思う。
その言葉を誤魔化すようにダジャレを言うことも中にはあるんだろうなと森山は推察する。
伊月の表情をみて、森山はあながち間違いではないのだろうと思う。
「そん、な……」
「同じチームだからこそ言えないこともあるだろう?」
それを受け止められるくらいには伊月よりも大人だと思うしと、森山は続けた。
「言われたことは誰にも言わない。約束するよ」
「あ……」
こういう事に気付くことが出来るはずの先輩が誠凜にはいない。
同級生が気付くことはおそらくないのだろうから、こんな言葉を掛けられる事もないに違いない。
常に伊月達が年上で先輩としてしっかりしていなければならない。そうして強くあり続けるには自分の苦しみや弱さを吐き出せる場所が必要になる。
その場所がないのなら、自分がなってあげるくらいには伊月より大人だ。
頼れる先輩がいる環境は学生生活に必要だ。
それがないのならなってあげればいいだけの話だ。
「メールに書けないなら電話でもいいし、こうやって会って話してもいい。心が悲鳴を上げる前に外にちゃんと吐き出しな」
「そんな迷惑掛けられません」
伊月は首を横に振って俯く。
「迷惑……とは思わないよ。そもそも、迷惑だと思ってたらそんな提案自体しないしね」
森山は伊月を見つめ目元をゆるめる。
「放っておけない。また、一人でため込んで一人で泣いてるんじゃないかって心配になる」
伊月の心の闇の吐き出す場所になるよと言ってくれる森山に伊月は無言で首を横に振り続ける。
「自分でも今気づいたんだけど、俺って意外と世話焼きだったみたい」
「……」
「だから、伊月が気にすることはないよ」
森山はそう言って伊月を見れば目元に涙が溜まっていた。
こぼれ落ちた雫に森山は手を伸ばす。
触れた指に慌てる伊月に森山はそのままでいいよと言葉を添えて目元に顔を近づけそのまま森山は伊月の瞼にキスをする。
自分でも無意識の行動に驚きながら伊月を見れば目を見開き驚いている。
「こうすると、涙止まるでしょ」
笑って言えば伊月は目元に手を触れてホントだと少しはにかんだ。
その表情に森山は目を離すことができなかった。
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自己紹介:
のんびりまったり、同人活動している人間です。
【黒子のバスケ】
友人のススメで原作を読みアニメを見てます。誠凛の伊月センパイ&秀徳1年コンビを気に入っております。
作者及び出版社等は一切関係御座いません。自己責任で閲覧ください。
※無断転載禁止※
【黒子のバスケ】
友人のススメで原作を読みアニメを見てます。誠凛の伊月センパイ&秀徳1年コンビを気に入っております。
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