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黒子の不調はあまり表情にでない。
けれども唯一一人、伊月俊だけは気付いたりする。
きっかけはそんな些細なものだった。
「黒子、調子悪いなら抜けて少し休憩してこいよ」
一年だからって遠慮する必要はないんだからなと、付け足して伊月は黒子をコートの外に出して練習へ戻っていく。
そのさりげない気遣いに黒子は何も言えないままその場に立ち尽くしていた。
「あれー、黒子君?」
指示を出していたリコが黒子に気付き声を掛ける。
「どした?」
「いえ、伊月先輩が……」
「伊月君?」
リコは首を傾げながら練習している伊月に視線を向けるとその視線に気付いた伊月がリコに口パクで伝える。
「なるほど。ってか、伊月君ってよく気付いたわね、黒子君て表情に出ないからみんな気付かないのに」
「はい。初めてです」
黒子はそう言いながら練習している伊月を見つめる。
PGというポジションのせいなのか、全体を見渡しチーム全体を把握している。主将とはまた違ってよく皆を見ていた。
「ほら、せっかくなんだから水分補給でもしてきなさい」
リコの言葉に頷いて黒子は水道に向かった。
この日以外も伊月は黒子の不調に気がついた。部内全員が驚く中、伊月が勘違いかと黒子に問えば是という事が続いた。
「よく気付くな」
「なんだろ、よくアイコンタクトするからかな……いつもと若干、タイミングっていうか、テンポがずれるんだよな」
初めは気のせいかとも思ったんだけどと、伊月が言っていて、そういえばと試合中、一番意志の疎通をはかっているのはポジション柄、ゲームメイクを担当する伊月だった。
伊月がいなければ黒子が活かされない。
もちろん、伊月は他の選手ともそういったやりとりをしているが、パスに特化させた黒子のプレイスタイルを考えるとその数も多くなる。
そのプレイの微妙な違いで伊月は黒子の不調を察知していたのだ。
黒子は改めて伊月俊という人を見る。火神という光がいて伊月というそれを活かすPGがいて、黒子はその二人に活かされてバスケをしているのだ。
そうして些細なきっかけで伊月を見ているうちに、気付けば黒子は伊月に惹かれていた。
火神や日向のようにスコアラーや、木吉のようにCでありながらPGのようなパスセンスを持ち『無冠の五将』と呼ばれ目立つわけではない。
彼らを最大限に引き出すためのゲームメイク。
それは地味だけど重要で、チームになくてはならない存在。そしてそうして伊月を見ていて黒子は気付きたくないことに気付いてしまった。
それは、伊月には思い人がいるということ。
伊月が試合だけでなく、練習中やミーティング時にチーム全体を把握しているのは、新設校として一年から主将としてチームを引っ張っていかなければならなかった日向のためだった。部員を鼓舞し精神的支柱となってチーム全体を見なければいけない日向の代わりにそこについていけない者や不調者に目を配り気に掛け日向が心おきなく引っ張っていけるようにさりげなくサポートしているのが伊月だった。
それはとても自然で気にしなければ誰も気にも留めず流れていく。だから、日向は伊月の思いに気付くことはなかった。
「伊月先輩って、主将と仲良いですよね」
「ん? そう、かな?」
中学が一緒だったからそう見えるんじゃないか? と黒子の言葉に伊月は何でもないように答える。
「でも、伊月先輩のダジャレに間髪入れずにツッコムのは主将だけです」
「ツッコミたいのか?」
「いえ、そういうわけではないんですけど」
きっと条件反射みたいなものだよと、日向の方を目を細めて見つめる伊月の表情はどこか痛みを抱えているようだった。
「日向はああいうタイプだから言わずにはいられないんだよ。事実、木吉にもしっかり突っ込んでるし、あの木吉の不調に、誰一人気付かないのに日向は気がつく」
「……」
「なんだかんだいって、日向は木吉のことを頼りにしてるんだ」
伊月の言葉に黒子は伊月の抱える痛みに気付く、その痛みは自分と一緒のもの。好きな人には別に好きな人がいるという、どうにもできないもの。
「まあ、木吉はいるだけで安心できるっていうか、そういうモノを持ってる奴だからな」
日向の気持ちはわからなくないけどなと、黒子に向けられる笑みは少し苦しげだった。
確かに木吉はいるのといないのとでの安心感が違う。
居てくれるだけで安心できる不思議な魅力のある人だ。そんな木吉を心の拠り所として立っている日向の気持ちは伊月の言うとおりわからなくはなかった。
~ 中略 ~
水道の水を頭から被っている伊月を木吉は見つけた。
「ほら、タオル」
「ああ」
「どうした、らしくないな」
木吉からタオルを受け取り伊月は水滴を拭う。
「俺らしいって、なんだろう。……なんか、不意にわからなくなった」
伊月は濡れた髪を拭うからとタオルを頭から被り表情を隠す。
「少なくとも、俺の知る伊月俊は人が大勢いるところで弱みは見せないな」
常に冷静に全体を見つめている、違ったか? 木吉の言葉に伊月は俯く。
それは日向を支えたかった伊月の願いだから、試合だけでもいい頼られる存在になりたいと伊月は思っていたからやっていたに過ぎない。
「それは買い被りすぎだ。あんなのは虚勢だ」
「嘘や虚勢でも、相手にばれなければいい話だ。事実、いままで誰も気付いていない」
「……」
「伊月が冷静にいてくれているとそう思えるだけで安心してプレイが出来る」
木吉の言葉に伊月は顔が上げられなかった。
「お前が真のポイントガードとしていてくれるから俺のスタイルも活きてくるし、黒子も活きる」
それは紛れもない事実だと、木吉は伊月の背中を叩く。
「ただ、どうしたって人間だ。弱音を吐きたくもなるだろう……だから、誰かの前で弱くなればいい」
「えっ」
「それを受け止められるくらいには、大人になってると思うが」
木吉はタオルの上から伊月の頭を撫でる。
「どうせ日向の前では見せないつもりだろう」
木吉という人物はどこまでの感情を知っているのかが疑問だったが、なんの裏もなく出来るのが木吉鉄平だった。
感情が不安定だったのもあり、木吉の言葉に伊月はこぼれ落ちる涙を堪えることが出来なかった。
額を木吉の胸に押しつけるようにした。
そんな伊月に木吉は何も言わず大きな体を活かして誰かが来ても伊月が見えないように立ち、伊月の背中をさすった。
* * *
しばらくして、木吉は体育館に一人で戻ってきた。てっきり、一緒に伊月もいるんだと思っていた部員全員で木吉を見つめる。
「なに、なんか付いてる?」
「ちげーよ、伊月は?」
「ああ。水道で頭から水被ったからシャツが濡れたからって着替えにいってる」
「ホントに冷やしてたのかよ」
木吉の答えに日向はそれなら構わないと、練習再開を告げて練習を再開させる。
ほどなくして伊月が戻ってきた。木吉が言っていたとおり頭から水を被ったようで、髪の毛が濡れていた。
「頭冷やすって、ホントに冷やすなよ。風邪引くぞ?」
「その方が気分もすっきりするかと思ってね」
いつもの調子の伊月に日向は安堵しつつ、目元の違和感に気付いた。伊月の前ではあえて口を出さないまま練習に戻った。
伊月はホントにすっきりしたのか、後の練習ではミスすることはなく、いつもの伊月だった。
けれども、日向は目元の違和感を確認するべく、木吉に近づいた。
「あいつ、お前が行った時、水を被ってただけか?」
「伊月?」
「そうだよ、なんか話したんじゃないのか?」
日向の問いに木吉はうーんと唸る。
「話すには話したけど、なんの話題だったかな……」
「……は?」
「いや、他愛ない話だったんだよ」
本気で思い出そうとしている木吉の姿を見て日向は脱力した。
「もういい、お前にまじめに聞いた俺がバカだった」
ヒラヒラと片手を上げて木吉から離れていく日向を木吉はただ黙って見つめていた。
伊月が一番弱い部分を見せたくない相手は日向なのに、言えるわけがない。
この日を境に、伊月が木吉といる姿がよく見られるようになった。
to be ...
けれども唯一一人、伊月俊だけは気付いたりする。
きっかけはそんな些細なものだった。
「黒子、調子悪いなら抜けて少し休憩してこいよ」
一年だからって遠慮する必要はないんだからなと、付け足して伊月は黒子をコートの外に出して練習へ戻っていく。
そのさりげない気遣いに黒子は何も言えないままその場に立ち尽くしていた。
「あれー、黒子君?」
指示を出していたリコが黒子に気付き声を掛ける。
「どした?」
「いえ、伊月先輩が……」
「伊月君?」
リコは首を傾げながら練習している伊月に視線を向けるとその視線に気付いた伊月がリコに口パクで伝える。
「なるほど。ってか、伊月君ってよく気付いたわね、黒子君て表情に出ないからみんな気付かないのに」
「はい。初めてです」
黒子はそう言いながら練習している伊月を見つめる。
PGというポジションのせいなのか、全体を見渡しチーム全体を把握している。主将とはまた違ってよく皆を見ていた。
「ほら、せっかくなんだから水分補給でもしてきなさい」
リコの言葉に頷いて黒子は水道に向かった。
この日以外も伊月は黒子の不調に気がついた。部内全員が驚く中、伊月が勘違いかと黒子に問えば是という事が続いた。
「よく気付くな」
「なんだろ、よくアイコンタクトするからかな……いつもと若干、タイミングっていうか、テンポがずれるんだよな」
初めは気のせいかとも思ったんだけどと、伊月が言っていて、そういえばと試合中、一番意志の疎通をはかっているのはポジション柄、ゲームメイクを担当する伊月だった。
伊月がいなければ黒子が活かされない。
もちろん、伊月は他の選手ともそういったやりとりをしているが、パスに特化させた黒子のプレイスタイルを考えるとその数も多くなる。
そのプレイの微妙な違いで伊月は黒子の不調を察知していたのだ。
黒子は改めて伊月俊という人を見る。火神という光がいて伊月というそれを活かすPGがいて、黒子はその二人に活かされてバスケをしているのだ。
そうして些細なきっかけで伊月を見ているうちに、気付けば黒子は伊月に惹かれていた。
火神や日向のようにスコアラーや、木吉のようにCでありながらPGのようなパスセンスを持ち『無冠の五将』と呼ばれ目立つわけではない。
彼らを最大限に引き出すためのゲームメイク。
それは地味だけど重要で、チームになくてはならない存在。そしてそうして伊月を見ていて黒子は気付きたくないことに気付いてしまった。
それは、伊月には思い人がいるということ。
伊月が試合だけでなく、練習中やミーティング時にチーム全体を把握しているのは、新設校として一年から主将としてチームを引っ張っていかなければならなかった日向のためだった。部員を鼓舞し精神的支柱となってチーム全体を見なければいけない日向の代わりにそこについていけない者や不調者に目を配り気に掛け日向が心おきなく引っ張っていけるようにさりげなくサポートしているのが伊月だった。
それはとても自然で気にしなければ誰も気にも留めず流れていく。だから、日向は伊月の思いに気付くことはなかった。
「伊月先輩って、主将と仲良いですよね」
「ん? そう、かな?」
中学が一緒だったからそう見えるんじゃないか? と黒子の言葉に伊月は何でもないように答える。
「でも、伊月先輩のダジャレに間髪入れずにツッコムのは主将だけです」
「ツッコミたいのか?」
「いえ、そういうわけではないんですけど」
きっと条件反射みたいなものだよと、日向の方を目を細めて見つめる伊月の表情はどこか痛みを抱えているようだった。
「日向はああいうタイプだから言わずにはいられないんだよ。事実、木吉にもしっかり突っ込んでるし、あの木吉の不調に、誰一人気付かないのに日向は気がつく」
「……」
「なんだかんだいって、日向は木吉のことを頼りにしてるんだ」
伊月の言葉に黒子は伊月の抱える痛みに気付く、その痛みは自分と一緒のもの。好きな人には別に好きな人がいるという、どうにもできないもの。
「まあ、木吉はいるだけで安心できるっていうか、そういうモノを持ってる奴だからな」
日向の気持ちはわからなくないけどなと、黒子に向けられる笑みは少し苦しげだった。
確かに木吉はいるのといないのとでの安心感が違う。
居てくれるだけで安心できる不思議な魅力のある人だ。そんな木吉を心の拠り所として立っている日向の気持ちは伊月の言うとおりわからなくはなかった。
~ 中略 ~
水道の水を頭から被っている伊月を木吉は見つけた。
「ほら、タオル」
「ああ」
「どうした、らしくないな」
木吉からタオルを受け取り伊月は水滴を拭う。
「俺らしいって、なんだろう。……なんか、不意にわからなくなった」
伊月は濡れた髪を拭うからとタオルを頭から被り表情を隠す。
「少なくとも、俺の知る伊月俊は人が大勢いるところで弱みは見せないな」
常に冷静に全体を見つめている、違ったか? 木吉の言葉に伊月は俯く。
それは日向を支えたかった伊月の願いだから、試合だけでもいい頼られる存在になりたいと伊月は思っていたからやっていたに過ぎない。
「それは買い被りすぎだ。あんなのは虚勢だ」
「嘘や虚勢でも、相手にばれなければいい話だ。事実、いままで誰も気付いていない」
「……」
「伊月が冷静にいてくれているとそう思えるだけで安心してプレイが出来る」
木吉の言葉に伊月は顔が上げられなかった。
「お前が真のポイントガードとしていてくれるから俺のスタイルも活きてくるし、黒子も活きる」
それは紛れもない事実だと、木吉は伊月の背中を叩く。
「ただ、どうしたって人間だ。弱音を吐きたくもなるだろう……だから、誰かの前で弱くなればいい」
「えっ」
「それを受け止められるくらいには、大人になってると思うが」
木吉はタオルの上から伊月の頭を撫でる。
「どうせ日向の前では見せないつもりだろう」
木吉という人物はどこまでの感情を知っているのかが疑問だったが、なんの裏もなく出来るのが木吉鉄平だった。
感情が不安定だったのもあり、木吉の言葉に伊月はこぼれ落ちる涙を堪えることが出来なかった。
額を木吉の胸に押しつけるようにした。
そんな伊月に木吉は何も言わず大きな体を活かして誰かが来ても伊月が見えないように立ち、伊月の背中をさすった。
* * *
しばらくして、木吉は体育館に一人で戻ってきた。てっきり、一緒に伊月もいるんだと思っていた部員全員で木吉を見つめる。
「なに、なんか付いてる?」
「ちげーよ、伊月は?」
「ああ。水道で頭から水被ったからシャツが濡れたからって着替えにいってる」
「ホントに冷やしてたのかよ」
木吉の答えに日向はそれなら構わないと、練習再開を告げて練習を再開させる。
ほどなくして伊月が戻ってきた。木吉が言っていたとおり頭から水を被ったようで、髪の毛が濡れていた。
「頭冷やすって、ホントに冷やすなよ。風邪引くぞ?」
「その方が気分もすっきりするかと思ってね」
いつもの調子の伊月に日向は安堵しつつ、目元の違和感に気付いた。伊月の前ではあえて口を出さないまま練習に戻った。
伊月はホントにすっきりしたのか、後の練習ではミスすることはなく、いつもの伊月だった。
けれども、日向は目元の違和感を確認するべく、木吉に近づいた。
「あいつ、お前が行った時、水を被ってただけか?」
「伊月?」
「そうだよ、なんか話したんじゃないのか?」
日向の問いに木吉はうーんと唸る。
「話すには話したけど、なんの話題だったかな……」
「……は?」
「いや、他愛ない話だったんだよ」
本気で思い出そうとしている木吉の姿を見て日向は脱力した。
「もういい、お前にまじめに聞いた俺がバカだった」
ヒラヒラと片手を上げて木吉から離れていく日向を木吉はただ黙って見つめていた。
伊月が一番弱い部分を見せたくない相手は日向なのに、言えるわけがない。
この日を境に、伊月が木吉といる姿がよく見られるようになった。
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【黒子のバスケ】
友人のススメで原作を読みアニメを見てます。誠凛の伊月センパイ&秀徳1年コンビを気に入っております。
作者及び出版社等は一切関係御座いません。自己責任で閲覧ください。
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