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主従パロ(主人・森山×メイド伊月) 





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「おはようございます。由孝様」

ベッドから起きあがった主人である森山由孝に向け声を掛けるのは、ここに引き取られてから俊の毎朝の仕事になっている。

「……」

寝起きの由孝は低血圧のため一番機嫌が悪い。それでも俊が声を掛けると少し違うようで、無言のまま俊の姿を開ききっていない瞳がとらえる。

「今日も良いお天気ですよ」

顔が洗えるようにと桶に用意してあったお湯を使い由孝が無言のまま顔を洗う。洗い終えた由孝に俊が手元に用意していたタオルを差し出す。

「俊は、寝過ごしたことはないな」
「そうですね。朝には強いみたいです」

笑顔で由孝の言葉に答える。
ここに来る以前の記憶を持たない俊に由孝とその父は寛大だった。
家の人から捜索願いが出ていないか、情報網を駆使してくれたが俊の家族はおろか親族すら見つけられなかった。
どこの子かも知れない小さな子供を放り出すわけでもなくこの家で由孝の身辺の世話をして生活するという形で俊を引き取ってくれた。
そして学校へと通わせることは出来ないが、由孝の家庭教師を由孝が学校へ行って不在の間、学業は必要だからと俊につけてくれた。
大きくなるにつれてそれがどんなに高待遇なのかを実感する。俊は森山親子に感謝しても仕切れないほどの恩を感じていた。
由孝が着る高校の制服を取り出し足早に動けば俊の着ているスカートがふわりと浮く。
伊月が着用しているのは、女中が着ているメイド服。
怪我が治り仕事をするときはこれを着るようにと小さい頃の由孝が用意したのがメイド服だった。当初、由孝は純粋に俊の事を女の子だと思っていたという。
俊も俊でよくわからず言われるままに身につけていたので、由孝の世話をするときはこのメイド服という風に習慣付いてしまい成長と共に新調するときに変更することなくそのままできていた。
俊は桶を下げ立ち上がった由孝の寝間着のボタンを一つずつ外して丁寧に脱がしていく。
そして用意しておいた制服のシャツを羽織らせてボタンを留めていく。
毎朝行うこの着替えだが、由孝が高校に上がって始まったネクタイ結びが、やったことがなかったこともあり、はじめの頃はもたついてしまって必要以上に時間がかかってしまい最終的には由孝自身が結んでしまう有様だった。
落ち込んでしまった俊に由孝は嫌な顔を一つせずに空いている時間を使って教えてくれた。今では手早く綺麗に由孝のネクタイを結ぶことが出来る。

「お待たせいたしました」
「俊もうまくなったね」
「由孝様のお陰です」

俊は由孝の脱いだ寝間着とベッドのシーツを持ち、下げておいた桶を手に取り一礼する。

「朝食のご用意はできておりますので、食堂の方へお願いいたします」
「ああ。わかったよ」

笑顔で答えてくれた由孝にもう一度一礼して俊は由孝の部屋を後にした。
洗濯物を所定の籠に種類ごとに分けて入れていく。
入れ終わり俊は手を洗い、今度は食堂へと向かう。
本来ならば給仕がいるのだが、由孝のだけ俊が給仕の代わりもやっていた。
俊が食堂に入るまでは給仕が由孝の分も用意しているが俊が来ると手を止めて俊と代わる。由孝は俊の姿を目に留めて微笑む。
朝食を食べ終えると由孝は身支度を整えて高校へと向かうため家を出る。
高校までは近いこともあり徒歩で通っている。俊は玄関まで出て由孝を見送る。

「いってらっしゃいませ」

一礼して歩き出す由孝を送り出す。
その背中を見つめて言いようのない胸の痛みに顔を歪ませる。
いつからか、主人以上の感情を由孝に対して抱いてしまっていることに気付いた。
いつだったか、雷であたり一帯が停電で真っ暗になったことがあった。
その時、初めて俊は自分が暗闇が苦手だったんだと自覚した。
いつもならば何かの光があって真っ暗になることがなく、わからなかったが何もなくなってはじめて自分は暗闇が苦手だったから明かりを絶やすことなく行動していたのかと理解した。
急に襲ってきた恐怖に俊は過呼吸になってしまい、その場に蹲った。
目を開いていても暗闇の状態で何が何処にあるのかもわからない状態で必死になって手を伸ばす。

「俊、いる?」

不意に俊の部屋に由孝の声が響く。
思いもよらない声に俊は声をあげようと思うが呼吸が苦しくてヒューヒューという音がするだけだ。

「あ、いた。良かった」

どうしてこの暗闇でわかるのだろうというくらいあっさりと由孝は俊の居場所をつきとめた。
そして腕の中に俊を包み込む。

「ごめん、もう少し早く来るつもりだったんだけど」

俊の状態を確認して背中を擦る。

「落ち着いて、ゆっくり息を吐いて」

由孝は俊がこうなっていることを知っていて捜してくれていたような口振りだ。

「そう。ゆっくり、大丈夫だから」

抱き締められて聞こえる由孝の鼓動の音が不思議と俊の恐怖心を小さくしてくれた。
ゆっくりと呼吸が落ち着いた俊に由孝は安心したように息を吐いた。
俊は抱きしめられたまま恐怖心ではない心臓の鼓動に気が付いた。
まだ暗いから緊張しているのかなとも思ったが、停電直後の嫌なドキドキではなく何なのだろうと不思議に思い戸惑った。
そういえば、こうやって由孝に抱き寄せられるのはいつぐらいぶりだっただろうか。
大きくなるにつれて、主人と使用人という線引きを、無意識にし、距離を取っていた。
そして由孝も、けじめとして他の使用人がいる前では、きっちりと立場をわきまえて接しってきたが、由孝の自室で俊と二人だけになると、そういった分け目も無く接してくれた。
そんな由孝だからこそ俊は、自分にできることは身の回りの世話ぐらいだけだけど、一生懸命世話をし、由孝の役に立ちたいと思えるのだ。

「停電になりそうな段階で俊を呼んでおけば良かった」

そうすれば、怖い思いも苦しい思いもさせずに済んだのにねと、耳元で謝る由孝に俊は首を振る。

「由孝様は来てくれました。ありがとうございます」

俊は由孝のシャツを握り伝えないといけないことを口にする。
まだ真っ暗で由孝の顔を見ることは出来ないが、至近距離に居るので呼吸で由孝が微笑んだことがわかる。

「暗闇が苦手なことを知っていらしたんですか?」
「ん?」
「オレは今日まで自覚がありませんでした」
「真っ暗にならないように配慮させてたからね」
「……そう、なんですか?」

知らないと首を振る俊に本人に気付かれちゃ意味がないでしょうと、由孝は言う。

「だけど、こういう事になるなら教えておかないといけなかったね」

暗闇の中なのに額にキスを落とされる。思いもよらない由孝の行動に俊はただ驚くしかない。

「まだ、ここに来て怪我が治って間もない頃にね。まだ俊が寝てなかったのに寝室の電気を切った事があったんだ」

真っ暗になった瞬間に叫んで我を忘れてたと続けられた言葉に俊はまったく記憶がないと呆然となる。

「それだけ怖かったってことでしょう」

だから、真っ暗にはならないように気を付けてたんだけどね、まさか停電があるとは思わなかったと由孝は俊の頭を抱きしめる。
暗闇とはいえいつも以上に触れてくれる由孝に戸惑ったままでいると、復旧したらしく電気が点く。いきなり明るくなって目が眩しさに霞む。
明るさに慣れてきてゆっくり顔を上げると由孝が俊を見つめていた。
視線が合い、思わず視線を逸らす。そんな俊を由孝は何も言わずに静かにそのままでいた。

「あ、ありがとうございました」

改めてお礼を言い俊はゆっくり由孝から離れた。

「それじゃあ、おやすみ」

畏まっている俊に由孝は頬にキスをして俊の部屋を後にした。
流れるようにされたキスに何の意図があるのかわからないまま胸のドキドキを抱えていた。
その原因が由孝を好きだからだと自覚するのにそう時間は掛からなかった。



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のんびりまったり、同人活動している人間です。

【黒子のバスケ】
友人のススメで原作を読みアニメを見てます。誠凛の伊月センパイ&秀徳1年コンビを気に入っております。

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