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練習終わりの帰り道、伊月は森山と恋人同士になってからというものいつも一緒に帰宅していた。
けれども、自宅の位置の都合上、海常高校から最寄り駅までという短い距離ではあったが、二人で居られる貴重な時間だった。
「そうだ。今週末の土日ってヒマ?」
「今週のですか?」
確か土曜に練習があって日曜は体育館の整備の都合上休みになっている。
「練習以外には特に用事はないですけど」
何かあるんですか? と伊月は森山に問いかける。
「何かというほどじゃないんだけどさ。今週末、両親が旅行でいないからさ、泊まりにこない?」
「森山先輩の家に?」
「そう。都合が良ければ」
「はい、大丈夫です」
笑顔で快諾する伊月に森山は釘を刺すように呟く。
「一応、する覚悟で来てね」
「……!」
森山の言葉に頬を一瞬で赤く染めてしまった伊月の額にキスを落とす。最近、ようやくしなれてきたコミュニケーションにも伊月は狼狽する。
「だ、誰か見てたらっ」
「大丈夫。誰もいないよ」
慌てる伊月にそう言って今度は口を塞ぐ。
「……」
「ほら、誰もいない」
前後左右見渡して誰もいないことを示せば黙って森山を見つめる。
そんなかわいい反応を返してくれる後輩は仕返しとばかりに森山のシャツを引っ張ると頬に掠めるようなキスを仕掛けてくる。
「あれ、それだけ?」
「今日はおしまい」
伊月はそれだけ言うと駅へと続く路地に入っていく。
「また明日。お疲れさまです」
頬を赤く染めたまま小走りに駆けていく背中を見つめながら伊月から仕掛けてキスしてくれた頬を手で撫でた。
「煽るだけなの、わかってるかな」
森山の呟きは伊月に聞こえることなく暗闇に消えた。
初めて見たときから、好きだったんだと出会いを思い出せば仕方ないのかなと思いながら森山は家までの道を歩き出す。
伊月は電車に飛び乗ると火照る頬をかき消すように首を振る。ちょっとした仕草の一つ一つに余裕があり格好いい森山に伊月は翻弄されまくりだった。
さりげないキスも最近は数えることが追いつかないくらいになっている。
それについていくのがやっとな伊月は毎回ドキドキの連続だった。
『泊まりにこない?』
その言葉にもドキドキが止まらず音が誰かに聞こえているのではないかと思うほどだった。
いづれ、体を繋げるんだと漠然とは思っていたが、それがいざ目の前に突きつけられるとどうしたらいいのかわからず困惑していたが、不思議と嫌だとは思っておらず、やはり森山のことが好きなんだなと感じていた。
最初に見たときにすでに惹かれていたのだと、今になればそう思える。
** *
同級生だった日向順平に告げられた進路に伊月俊は愕然とした。
「オレ、誠凜に行くわ」
「誠凜って、新設校の? あそこ、バスケ部なかったはずじゃ……」
「だからだろ、バスケはもうやらないんだから」
バスケはやらないから、バスケ部のない学校に行くと言われ伊月は進路に迷いが生じた。
高校でも日向とバスケを頑張ろうと思っていたのだが、伊月が思っていた以上に中学で一度も勝ったことがなかったのは日向の心に傷を残していた。
伊月も悔しくないわけがない。日向の実力に自分の練習では追いつくことが出来ず足を引っ張るだけになったのは、事実だ。
日向に対して掛ける言葉も見つからず、高校でもバスケがやりたいと思っている伊月は日向とは別の進路を選んだ。
――海常高校。
神奈川県にある全国区のバスケ部を有する学校だった。決してスカウトをされたわけではないし、この学校でレギュラーになれるとも思っていない。
強い学校に行ってバスケをやってみたかったというのが正直なところだった。
何故、都内ではなく神奈川だったのか。
それは万が一通学で日向と顔を会わせることが少ないだろうと思ってのことだった。海常高校に向かうためには誠凜高校に向かうよりも早くに家を出なければならない。
そうすれば、会う機会は減るだろう。そんなことを考えてだった。
海常高校のレベルは本当に高かった。
部活のオリエンテーリングで二、三年の先輩が紅白試合をしていたのだが、これが全国なのかと感嘆してしまうほどの迫力だった。
「さすがにすごいな……」
「ああ。そうだな」
クラスが一緒でバスケ部に入ろうと思っているという中村と共に紅白試合を見ていたのだが、思わずでた感嘆の言葉に中村も同意していた。
「伊月ってポジション何?」
「オレはPGだよ」
「それじゃあ、あの人とレギュラーを争うわけだ」
「まさか、オレはあんなにすごくないよ」
「でも、近づこうとは思ってるんだろ?」
「そりゃあ、やるからには」
この海常高校をPGとしてゲームメイクしていたのは二年の笠松幸男だった。PGでありながら3Pシュートも打つことの出来るプレイヤーだった。
この学校で二年にしてレギュラーでいるだけのことはあるという納得のプレイだった。
「うわっ、汚いフォームだな」
「ホントだ……」
「あれで入るのか……?」
中村の声に顔を上げると一人のプレイヤーが3Pシュートを放つ瞬間だったのだが、そのフォームがめちゃくちゃでボールも通常の軌道ではなかった。
けれども周囲の思惑とは違いそのボールはきれいにゴールへと吸い込まれた。
「は、入った……」
そのシュートは紅白試合の間に何本も見ることになったが、一本も外れることなくポイントになっていた。
「あのフォームだからこそはなてる無回転のボール……」
「見たことなかったな、あんなシュート」
伊月と中村は初めて見たシュートに驚きながら入部届けにバスケ部と記入していた。
伊月にはあのSGが強烈に印象に残っていた。
――日向とはまったく違うSG。
あんなすごい人といつか同じコートに立って試合に出れるのだろうか、期待と不安が交錯しながら伊月はバスケ部へと向かった。
そのSGが森山由孝という二年生だと知るのはすぐのことだった。
すでにこの時に伊月は森山に惹かれていたのだ。
...to be
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のんびりまったり、同人活動している人間です。
【黒子のバスケ】
友人のススメで原作を読みアニメを見てます。誠凛の伊月センパイ&秀徳1年コンビを気に入っております。
作者及び出版社等は一切関係御座いません。自己責任で閲覧ください。
※無断転載禁止※
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